ソファに腰かけていた残りの捜査員三人も、立ち上がって内田の後ろからパソコンを覗きこんだ。彼らは数日前、内田と金島のやりとりを見守っていた捜査一課の居残り組である。その内三人は阿利宮の部下だったが、四十代に突入したが仕事に熱を入れ過ぎで独り身のままなのは、ベテラン捜査員でありヘビースモーカーの澤部だ。

 澤部は張りのなくなった頭髪に不安を覚え、婚期を逃しているのではないかと心配する四十一歳だった。若い頃から金島、毅梨と共に前線で活躍し、阿利宮と内田に仕事を教えた先輩である。

 内田のパソコン画面は、すでに書き上げられた文章ファイルを展開していた。

 
『東京、高知、共に二十三時作戦決行』
『高知県警、事件介入の許可。指示を待て』
『対象者、藤村組。二十四日二十三時、事務所へ強行突入せよ。建物内に残ったメンバーの確保』


「……つか、この内容、金島本部長から聞いたまんまなんすけど」
「呟き伝言板みてぇだなぁ」

 澤部はセットされた張りのない頭髪に触れてそう言い、内田がじろりと視線を送った。目が合った二人の間に、ぴしりと張り詰めた空気が流れる。

 しばしの無言を置いて、二人がほぼ同時に口を開いた。

「黙ってろ薄ら禿げ」
「てめぇこそ黙れよ垂れ目」
「婚期逃した禿げの癖に」

 言い返せなくなった澤部が「内田ぁ!」と叫び、見守っていた三人の捜査員が「先輩抑えてッ」と後ろから彼を拘束した。

 それを見た毅梨が、「やめんかお前たち、金島本部長の前だぞ」と上司らしく声に威厳を持たせて一喝したとき、けたたましい電話のコール音が室内に響き渡った。

 垂れた瞳をやや見開いた内田の後ろで、揉み合っていた澤部たち四人がぴたりと動きを止めた。阿利宮が、書斎机で鳴り響く金島の携帯電話に気付き、毅梨も表情を強張らせる。

 金島がゆっくり携帯電話を手に取り、耳をあてた。数秒後にはっとして息を呑み、言葉短く応答すると蒼白顔で声を潜める。

 数分も経たずに金島は電話を切ると、立ち上がって一同を見回した。