もともと、尾賀の元で麻薬を扱っていた明美は、元々の強い気性もあったが、それ以上に交渉役や連絡係としても経験が長いため度胸が据わっていた。いつも「尾賀のバックにも黒い物があるんだから、あいつに任せとけばいいのよ」と強気な態度だが、今日はいつになく自分で考えているようだった。
「尾賀は何も言わないけど、事件をもみ消したり報道を抑制しているのは、あいつのバックにいる奴だと思うのよ。でも、なんだか今回はいつもと違う気がして……」
明美は言葉を切ると、すくっと立ち上がって常盤に向き直った。白衣と栗色の髪がふわりと揺れ、愛嬌溢れる顔に真剣味を帯びて口を開く。
「ねぇ常盤、時間が取れるときでいいから、軽く町中を見てきてもらえないかしら」
「何を調べればいいわけ?」
「堅苦しいことじゃないのよ。ただ、あたしより、あんたの方がこの町のこと知っているじゃない? 変わったことや気付いたことがあったら、あたしにこっそり教えてほしいの」
常盤は探るように明美を見て、「取引に関係する頼み事か?」と訊いた。
明美は「そういうことじゃないけど」と視線をそらした。
「あたしの車で移動するときに、ちょっと長めのドライブに付き合ってくれたりとか、そういう時に教えてくれてもいいと思うの……だってあんた、きどってる子供の癖に、すごく頼り甲斐のある大人の顔したりするんだもの…………頼りたくなるのよ……」
そう口の中で続けられた気弱な、実に彼女らしくないもじもじとした台詞を聞いて、常盤は思わず「は?」と疑問の声を上げた。
途端に明美が、ハッとした様子でこちらを見て表情を取り繕った。頬にかかった髪を耳に掛け直し、思い出しかけた何かしらの弱みでも振り払うかのように、大げさに踏ん反り返る。
「あんた暇あるでしょ。一番出歩ける立場なんだから、大学で寝るくらいだったらちょっとは動きなさいよ」
明美の言葉は、八つ当たりともとれる幼い言動だった。こんな女だったか、と常盤は疑問に感じたが「分かったよ」とぶっきらぼうに答えて口をつぐんだ。
常盤は大人も子供も好きではなかったが、なぜか明美の頼みだけは断れなかった。こうして話していると、年が違うばかりの腐れ縁を感じて、ずいぶん長い間つるんでいた友人のように、明美のそば不思議なほど心地良いのだ。
「尾賀は何も言わないけど、事件をもみ消したり報道を抑制しているのは、あいつのバックにいる奴だと思うのよ。でも、なんだか今回はいつもと違う気がして……」
明美は言葉を切ると、すくっと立ち上がって常盤に向き直った。白衣と栗色の髪がふわりと揺れ、愛嬌溢れる顔に真剣味を帯びて口を開く。
「ねぇ常盤、時間が取れるときでいいから、軽く町中を見てきてもらえないかしら」
「何を調べればいいわけ?」
「堅苦しいことじゃないのよ。ただ、あたしより、あんたの方がこの町のこと知っているじゃない? 変わったことや気付いたことがあったら、あたしにこっそり教えてほしいの」
常盤は探るように明美を見て、「取引に関係する頼み事か?」と訊いた。
明美は「そういうことじゃないけど」と視線をそらした。
「あたしの車で移動するときに、ちょっと長めのドライブに付き合ってくれたりとか、そういう時に教えてくれてもいいと思うの……だってあんた、きどってる子供の癖に、すごく頼り甲斐のある大人の顔したりするんだもの…………頼りたくなるのよ……」
そう口の中で続けられた気弱な、実に彼女らしくないもじもじとした台詞を聞いて、常盤は思わず「は?」と疑問の声を上げた。
途端に明美が、ハッとした様子でこちらを見て表情を取り繕った。頬にかかった髪を耳に掛け直し、思い出しかけた何かしらの弱みでも振り払うかのように、大げさに踏ん反り返る。
「あんた暇あるでしょ。一番出歩ける立場なんだから、大学で寝るくらいだったらちょっとは動きなさいよ」
明美の言葉は、八つ当たりともとれる幼い言動だった。こんな女だったか、と常盤は疑問に感じたが「分かったよ」とぶっきらぼうに答えて口をつぐんだ。
常盤は大人も子供も好きではなかったが、なぜか明美の頼みだけは断れなかった。こうして話していると、年が違うばかりの腐れ縁を感じて、ずいぶん長い間つるんでいた友人のように、明美のそば不思議なほど心地良いのだ。