狼男とされた殺人鬼は十六体あり、彼らの強靭な骨格は銃弾をも受け止めた。戦闘において知能が非常に高く、ロディフスの暗殺に成功してもなお、雪山での死闘が続いた。多くの優秀な軍人と軍事戦力が大打撃を受け、応援要請を受けた中国と日本の特殊機関も動いたのだ。

 日本からは、ちょうど仕事で近くにいた雪弥が選ばれた。彼が投入されたあと事件はようやく収まり、それ以来、各国ともにバオテクノロジーを駆使した犯罪組織の動きには敏感になっていた。


 しばらく、雪弥は尾崎を見つめていた。尾崎は微笑んだまま首を傾け、「実際、当時現場にいたあなたになら分かる出しょう」と口にする。


 雪弥は「そうですね」と思い出すように答えると、澄んだ声を強めてスピーカー越しに問い掛けた。

「薬の発生元は特定されたんですか?」
『レットドリームと呼ばれている物に関してはほとんど出回っていないが、お前についている第四暗殺部隊の者が、その学生に薬を渡した人間を特定し、そいつが乗っていた車がうちでマークしている組織の物であると特定した』

 だが、と彼は言葉を強める。

『表向き金融会社であるあの連中が、例の青い覚せい剤を学園に運んでいる痕跡は見付かっていない。恐らくだが、それに関しては、ヘロインを持って来る業者が直接渡している可能性がある。とすると、発生元は二つと考えた方がいい。確実に叩くためにも、同時に潰さないと厄介なことになるだろう』
「製造方法が流用している、ということですかね?」
『本当は製造元を特定したいところだが、何も分かっとらん。業者側がもともと調合もしていたのか、うちでマークしている人間のうちにそういった奴がいるのか……。調査は進めさせるが、こっちを野放しにしておくには危険がすぎる』

 もっと大きな組織が絡んでいる可能性は見えている。そこから繋がりを探せるのであれば、もしかしたら後ろで糸を引いているかもしれない、こちらの機関でさえ足跡を掴めていないグループや真相に辿り着ける可能性はあった。

 とはいえ、今すぐに、というのは希望的観測論だ。

 ここまで巧妙に足もつかない組織への対応を待って、既に浮き彫りになって活発的に動いている今回の事件の解決を先延ばしにするという選択はない。


『事件は早急に明るみに出てきたわけですが、俺としては、なんだか上手く動かされているような気がしてなりませんよ』


 キッシュが危惧するように言ったとき、黙っていた尾崎が、白い髭を乗せた唇を開いた。

「キッシュ君、今はこの状況をどう処理するのか考えるべきです。それによる一般被害者が出る前に、こちらで片づけなければならない。根元を断とうが湧きだして来る害虫は多い。それを潰すのが我々の役目です」