正面玄関のそばにある事務室には、三人の女性がいた。窓口に中年の女性が座り、後部の事務机では若い二人の女性が囁くような声量で会話をしている。

「あの、本田雪弥ですが」

 雪弥が尋ねると、事務机にいた若い女性が席を立った。緑と白のストライプが入ったごわごわのシャツは、百五十センチもない小柄な体躯に比べてサイズが大き過ぎていた。下からはいているロングスカートはくびれもなく広がっており、飛び出た頭と手足は一見すると寸胴であった。

 セミロングの黒い髪を二つに結びまとめた彼女は、事務室から出て来ると、分厚い眼鏡を親指と人差し指で挟むように押し上げた。かなり視力が悪いのか、眼鏡の度数が合わないのかは分からなかったが、かなり下から雪弥を覗きこんでくる。

「ん~本田君ですか? わたくし、事務の岡野(おかの)メイです」
「えっと、そうです。本田です……」

 岡野と名乗った女性は、どこか間が抜けたようなゆっくりとした口調で話した。戸惑う雪弥を見て、事務にいた中年女性が「ちょっと岡野さん」とうんざりしたように声を掛ける。

「写真の通り、彼が本田雪弥君よ。あなたが見つけた編入願書の抜けてる項目、ちゃんと説明して書かせてちょうだいね。ご両親の欄はミスがないから、生年月日のついでに進路調査表もお願い」
「はい、はい、はい。分かってます、分かってます」

 ゆっくりと答える岡野は、これ以上女の言葉は聞きたくもないといった様子だったが、表情と抑揚に変化は見られなかった。手に持っていた茶袋の封筒を雪弥に見せ、「抜けているところがあるので」と続ける。

「うちの説明不足ですみませんでした。覚えてます? 電話でお話しを伺った岡野です」
「さぁ、どうだったかな。実際にお会いしたことはないですし、全然分かりませんでした」
「構いません。では、こちらへどうぞ」

 長いスカートから小さく覗いた岡野の寸胴な足が、力なく前進を始めた。

 伸び過ぎた彼女の背筋はやや後ろへと傾き、短い両手両足を大きく振る様子はぎくしゃくとして動く。岡野と、彼女の後ろをゆっくりと追う雪弥を、事務室から覗いた二人の女がしばらく心配そうに見送った。