六月二十四日の木曜日、雪弥が白鴎学園に潜入してから四日が過ぎた。

 火曜日の夜、修一と暁也を酔っぱらいから助けてから二日が経過していた。雪弥はその間、常盤という生徒が一組であることを確認すると同時に、よく校内を見て回った。

 火曜日の夜に、保険医の明美が薬物をやっているかもしれないと話してくれた少年たちは、翌日の水曜日にはすっかり立ち直っていた。時々屋上でその話題が出ると「馬鹿バカしくて泣けて来る」と暁也が苦渋の表情を浮かべ、修一が腹を抱えて大笑いするほどであった。

 少年たちにとって、学園に大量のヘロインがあり、得体の知れない青い覚せい剤が出回っているなど、非現実的で遠い世界の話なのかもしれない。

 雪弥はそう思って、ならばもう疑わないだろうと安堵した。

 水曜日の全校集会が体育館であった日、暁也と修一は、昼休みに雪弥を連れ出すと運動場から案内を始めた。高等部用の運動用具入れとテニスコートを見て回り、その日の短い案内は終わった。

 アメリカのテニスコートを想像していた雪弥は、規模の小ささに少々間が抜けたが、新しいテニスコートを自慢する修一に「とても立派だね」と返した。放課後には矢部に連行された二人の少年を見送り、雪弥は一人で校内を見て回った。後日、「なんで雪弥が転入して来て早々呼び出しが増えるんだよ」と二人は小言をもらした。


 木曜日である今日は、一時間目と二時間目の休み時間の合間を使い、雪弥は二人の少年と共に二つの校舎に位置する中庭へと行った。そこは、三階視聴覚室や学食から見みることが出来るものである。


 北東から西南にかけて真っ直ぐに続く敷地には、車一台が裕に通れる幅を持ったS字の歩道が敷かれている。それに沿うようにして造られていた花壇には木と花が分けて植えられ、色取り取りの花が緑の葉を生い茂らせる木によく映えていた。

 中庭のベンチや噴水にいる学生の大半は、西側に位置する大学駐車場からやってきた学生たちであった。高校生が中庭に降りるための出入り口は、移動教室用の部屋ばかりが集まる南側校舎裏口となっているため、使う生徒がほとんどいないのだ。

 大学駐車場との間に桜の木を三本植え、敷地を区切る中庭の西南側に倉庫が一つ置かれている。花壇の整備をしている大学園芸部のもので、中にはシャベルや土、軍手や箒の他、イベント時に車を誘導するカラーコーンや、高等部運動場を借りてスポーツ競技を行う際の小道具や式台といった荷物がしまわれていた。

 中庭にある大学倉庫の大きさは、高さ三メートル、横幅は大人が手を広げて三人並んだ程度だった。奥行きも同じ長さで造られ、地図上で確認すると二つの校舎を隔てた西南側に、正方形の大学倉庫を確認することが出来る。

 雪弥は案内されながら、携帯電話で写真を一つ撮った。遠赤外線透視カメラを搭載しているそれで撮影してみると、地下倉庫は写真の中の緑の線と黒い画像の中で、積み上げられた大量の白い物体を映した。報告のメールとして、その場でナンバー1に送った。

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 三時間目の授業は数学だった。教科を担当しているのは、雪弥の通う三年四組の担任である矢部である。