常盤は校内を歩き回った。すでに青い覚せい剤を使用する大学生が三十八人おり、あとは戻ってきた高校側の校長でもある、尾崎理事長を監視するだけだった。

 そんな中、やはり常盤は自分の相棒となりうる同じ年頃の人間を探していた。

 いつも目ぼしい生徒が見つからず、図書室へ行っては、極悪非道の犯罪記録が載った本を探して読み耽った。自分がその行為をしていることを想像して、一人で酔いしれた。しかし、そこには必ず顔の見えない相棒の存在があった。

 しばらく経ってもそんな相棒は見つからず、大きな取引の日が着々と迫ったある夜。常盤は、ふとあることを思いついた。見つからなければ、自分で作り上げてしまえばいい、と彼の中の悪意が囁いたのだ。

 本で読んだ犯罪者のことを思い出し、常盤は少し前まで自分が虫も殺せない優等生だったことを考えた。心の奥底に悪を秘めている者であれば、環境や心情の変化によって悪党に戻れることを彼は思った。


――『悪党になれる人間は決まっているが、全員必ず自分の本質に帰ろうと働く』


 記憶から引き出したのは、最近読み終わった本の一節だった。わずかな悪ばかりしか持っていない人間も、悪行に酔いしれると抜け出せなると書かれていたのだ。

 追い込まれた状況で、新しい自分に目覚めた例がある。十三人の少女を暴行し殺害した犯人、ディック・エイシーは大人しい学生で、女子大生から激しい暴行を加えられた際殴り返したことが始まりだったといわれている。

 強く死を感じた彼はその女子大生を殴り殺し、死体を犯すことでひどく快楽を得たのだという。それから病みつきになったディックは、一月半で十三人の少女たちを次々に襲い、その後快楽殺人犯として逮捕された。

 常盤は、これから起こす行動を考えて興奮した。「俺は、このままじゃ終わらない」と夢見心地で言葉を吐き出すと、頭上を仰いだ。誰もが恐怖する残酷で残忍な悪党になるのだ。

 常盤はそこに、素顔も定まらない相棒を思い浮かべた。

 見付けられなかったら、自分の手で作り出そうと思った。