理香に目をつけたのは、同級生を見つめる彼女の目に「皆馬鹿じゃないの」と悟ったような気配を感じ取ったからだ。彼女は常盤の期待を見事に裏切ってくれたが、ヘロイン入荷を円滑に進めるため、常盤が考え出した作戦を上手くこなして人払いを成功させた。

 誰も夜間の学園に近づけさせないよう、常盤は五月始めから土地神の呪いの噂とチェーンメールを流していた。しかし、その程度では受け手の恐怖感を強く煽れない。

 それならばと考えた彼は、すっかりシマの愛人となっていた理香を使った。彼女が数人の生徒を連れて肝試しに行った夜、常盤は白い布の下にライトを準備して高等部校舎に待機していた。理香が恐怖する演技をしたとき、幽霊に見えるようにそれを動かしたのだ。

 理香のつんざくような悲鳴を合図に、恐怖に駆られた生徒たちが「呪いだ」「祟りだ」といって逃げ出した。元々土地の神様の噂が多々あったこの地域では、似たような話が語り継がれているのだ。「まさかな」と思った生徒さえ、幼い頃から教え込まれた土地神説にすっかり委縮した。

「うまく人払いをしたみたいだな」

 シマは「さすが俺の自慢する小悪党だぜ」と常盤を褒めたが、そんなのは子供騙しの悪戯みたいなものである。常盤はずっと、満たされないままだった。

 骨のない少年たちが集まった白鴎学園で、常盤は独りぼっちの気分から抜け出せないでいた。藤村組の中にいても、その思いは消えなかった。

 
 悪行に酔いしれていた常盤は、すぐそばにいて、いつでも悪の喜びを分かち合える人間を欲していた。六月に入って三回目のヘロインが学園に到着していたが、上手く運んでいる計画よりも、見つけられない相棒を渇望し彼は急いた。

 富川に藤村や明美がいるように、シマに長年付き合っている藤村組のメンバーや理香がいるように、彼は自分のパートナーに相応しい、頭が良くて賢い悪党が欲しかった。