汚らわしい、汚らわしいッ、汚らわしい!

 そう何度も心の中で罵りながら、公園のトイレに駆けこんで常盤は激しく嘔吐した。全身の毛穴が総毛立つほどの嫌悪感に、呼吸もままならなかった。暴れ狂う感情は収拾がつかず、髪をかきむしってあたりかまわず乱暴に殴り付けた。

 あんな女の腹から、俺は生まれたのか。

 常盤の父は、大柄でいかつい顔立ちをしていた。歳が離れた兄弟は凛々しい目元だけが母親譲りで、顔立ちは父の生き写しだった。


 歳が離れすぎた末っ子だけが誰にも似ていない。両親兄弟共に癖毛がありながら常盤にはそれがなく、細く小さな顔立ちは彼らと全く違っていた。父と兄たちよりも細い骨格、焼けてもすぐに戻る白い肌は、母のものですらなかった。


 考え出すと想像は一気に膨れ上がった。「俺が本当は父の子でないことを知っているのではないか」と勘ぐり、家族に強い嫌悪感を抱いた。

 父や兄たちにこれまでの尊敬も持てなくなった常盤は、その元凶である母を憎んだ。英才教育を強いている母が、愛人となっている男の子供として自分を育てていることを考え、何もかもが許せなくなった。

 ぶち壊してやる。お前の望み通りになってたまるか。

 常盤は母が敷いたレールを歩いている振りをして、そこから大きくはずれてやろうと企んだ。強い復讐心に駆られたた彼は、塾が早く終わる日を利用して、これまで行ったこともなかったゲームセンターで時間を潰すようになった。

 金なら自分の通帳にいくらでも入って来るのだ。常盤はゲーム機に怒りをぶちまけたが、その心が満たされない虚しさを感じていた。


 そんな矢先、一人の男が常盤に声を掛けた。明らかに柄の悪そうな男だった。

 敷かれたレールをぶち壊してくれるならと会うようになったが、そこで常盤は初めて、自分が悪に恋焦がれていることに気付いた。男に教えられた煙草と酒は、怒りしかなかった彼の心に人間性を刻みこんだ。


 常盤が出会った男は「シマ」と名乗った。小さな組織である「藤村組(ふじむらくみ)」の人間であり、仕事で茉莉海市を訪れているとのことだった。

 集団詐欺事件で出回っているとシマは語り、常盤は彼が別の名義人で借りている小さなアパートで話しを聞きながら、臆することもなく意見や助言を述べた。シマは犯罪に興味を持っている賢い常盤をひどく気に入り、茉莉海市を頻繁に訪れて交流を取るようになった。