自分があのとき、なんと答えたのかを雪弥は思い返した。


[じゃあ粉々にして袋に詰めてしまえばいいじゃないか。どうせ傷は塞がる。どこまで削ぎ落せば生命が停止するのか、見物だろう?]


 そう言って、四肢を切断されてもがき苦しむ巨体を見降ろして微笑んだのだ。彼はあのとき、今は同じ人間には見えない里久であって良かったと、心の片隅に残った思考でそうも感じていた。

 まるで自分ではない何者かが、時々凶暴な顔を覗かせて、全てをひどく憎悪している気がする。まるで、この恨みを忘れるものかというほどの強い憎しみで、家族以外の光や生命を嫌って、それを壊すために生きているのだと――そんな妙な想像が働く。

 多分、そんな事は、きっと気のせいなのだろうけれど。

 コンビニの前の道路を、大型トラックが通り過ぎたとき、雪弥は星すら見えない空を見上げた。

 雲に覆われた空は黒く沈むように広がり、湿った空気は居心地悪いほど澄んでいる。彼は多くの血を浴びた感触を不意に思い出したが、嫌悪感の一つすら湧き上がって来ないでいた。他のエージェントたちが、現場を見て嘔吐する嫌悪感というのが、いまだ理解できないでいるのだ。

 やはり僕には、影の世界に生きる方が相応しい。

 心の中で呟いた雪弥は、「無駄に頭動かしたせいで腹が減った」と言い出した声を聞いた。二人の少年たちが、立ち上がってこちらを振り返り「ちょっとコンビニで肉まん買ってくる」と声を揃える。

「お前のも買ってこようか?」

 修一が尋ね、雪弥はゆっくりと首を横に振った。二人の少年は「雪弥はやっぱりサンドイッチ派だと思う」と会話をしながらコンビニへと入っていく。

 光りの世界が似合う無垢で純粋な子供たちが眩しく思えて、雪弥は思わず目を細めた。壊してはいけないものをそっと見守っていたが、風が止んだ瞬間その瞳から力が抜け落ちた。


 静まり返った雪弥の脳に、無意識に浮かび上がったのは、コンビニにいる少年組と店員、三人の男性客を皆殺しにしたらどうなるだろうといったことだった。

 外からでも良く映える店内が、真っ赤な潜血に染まってさぞ美しいことだろう。