保険医である明美は、大学の学長である富川の連絡係であるらしいので、もしかしたら、富川が今回の事件に関わったのは、愛人として彼女と関係を持ったうえである可能性もある。

 とはいえ、確証はない。もともと富川が先に事件に関わっていて、彼女を引き入れた可能性だって十分にあるからだ。


 高等部三学年の常盤が生徒側で動き、保険医の明美と共に、高校側の校長でもある尾崎理事長の動きを把握して富川に知らせている。連絡を受ける立場という事は、白鴎学園に潜んでいる共犯者の頭は富川が担っているのだろう。

 学園側と繋がりがあるのが、建築事務所として茉莉海市に入っている「藤村事務所」のメンバー。

 ヘロインと覚せい剤を持ってくるグループと、東京でナンバー1がマークしている組織が、富川たちの知らないところで別の目的があって動いている――という構図が脳裏には浮かぶ。

 高校生の麻薬常用者は、先程ゼームセンターで聞いた話から考えると、現時点では常盤と理香以外にはいない。けれど、先程対峙したブルードリーム使用者の一件を思うと、事件は最悪な収拾を迎える事になるのを否めなかった。

 もし、今回里久と対峙していたのが別の人間であったのなら、民間人を含めた死傷は免れなかっただろう。雪弥はそう思って、テレビの話を始めた少年たちから目をそらした。

 常盤たちの会話を思い返す限りでは、どうやらなんらかの取引のため、富川たちは青い薬「ブルードリーム」を三十名から四十名の生徒に配るようだ。先程捕えた里久と、手に入った青と赤の双方の薬を調べた結果によっては、これはナンバー4に相応しい仕事になる。

 薬が出回っているという大学側から、一体何人の対象者が出てくるのだろうか。

 ふと、そんな呟きが自分の中で起こって、雪弥は唇の端を小さく持ち上げた。予想できる展開の一番嫌な結末に、皮肉にも、期待にも似た凶暴な高揚感が胸の底で重く広がるのを認める。

 すっかり別人となりはてた里久の四肢を切り落としたとき、雪弥は切り離された両手両足を、更に切り刻もうとしたのだ。そして夜狐がいつものように「処理が大変です」と述べて止めた。