「排泄物の色にも問題はないし、歯茎の色も良いですねぇ。食事の量も増えましたか？」
「まぁ、そうだな、増えているな。それから、最近は犬用のクッキーも少々……」
「シェリーは頭の良い犬だから、食べ過ぎる事はないでしょう。催促されたら、どんどんおあげなさい」

　自信たっぷりに言われても不安はあり、萬狩は、専門の獣医である彼にクッキーの袋を見せた。

　仲村渠は少し眉を上げるような表情をし、それから「良い買い物をしましたねぇ」とにっこり微笑んだ。仲西がいる会社とは別会社が扱っているメーカー品らしく、その老人獣医は「ツテで安く買えますから、次から私の方で持って来ますよ」と請け負った。

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　七月になると、蒸し暑さが急激に増した。雑草の成長スピードがアップすると同時に、虫も一気に増える時期に差し掛かった。

　萬狩の仕事は、ＰＣと電話で会社の人間から報告を聞き、確認し、指示する簡単な物だったので、基本的には暇な時間が多い。

　空いた時間に庭の手入れをする事が日課になっていたので、萬狩は、大型のホームセンターで殺虫用スプレーと虫避け、それから土の手入れに必要な物も追加で買い揃えていた。

　仲村渠に、以前この家にあったという花壇について話を聞いた萬狩は、ホームセンターで、ついでに煉瓦と、店頭販売していたパンジーの花の苗を各色分を複数個購入した。

　帰宅した萬狩は、まずはリビングを出てすぐの場所の土を掘り返す事から始めた。

　しかし、簡単に考えていた萬狩は、実際にやってみて苦労した。土を掘り返す作業は、想像以上に労力が要ったのである。彼は、何度も腰と筋肉の痛みに作業の手を止め、額に浮かぶ玉の汗の拭いながら「まだこれだけしか掘り返せていないのか」と苦い顔をした。