本当に、自分の事なのに訳が分からない。実際、半分血の繋がった娘の顔でも見れば満足するのだろうかとも考えていたが、どうやらそれも違っていたらしい。

 もやもやを感じた当初、望んでいたような、自身の心が納得するような感覚は何も起こらなかった。だからこそ、彼は落胆も覚えている。

 ヨリは、しばらく窓から見える雨模様を眺めた。ガラス窓に反射した店内の中に、楽しそうな顔で接客を続けている茉莉の姿を見ていた。

 ふと、ガラス窓に映っていた彼女の視線が、彼を捉えた。その一瞬、ヨリは、彼女とガラス越しに目が合ったように感じた。

 そのまま視線は離れていき、茉莉の姿が一旦カウンターへと戻る。気のせいだったらしいとヨリは判断し、心に留める事もなく珈琲を口にした。彼は自意識過剰でもない。もしかしたら、という可能性を考えればきりがないので、普段からそんなことをしない男だった。

 それから少しもしないうちに、ガラスに映った店内風景の中に茉莉が戻ってきた。そのまま、こちらへと近付いてくるのが見えてヨリは手を止めた。

 彼女の目は、珈琲カップと彼の後頭部を行き来しているようだった。テーブルの上にカップを置くと、彼女の歩みがやや速くなってこちらへと向かってきた。

「お客様、ホット珈琲のおかわりは如何ですか? ブラック珈琲でしたら、おかわりが可能なんですよ」

 どうやら、彼女は珈琲の量を気にしてわざわざやってきてくれたらしい。恐らくは、常連客と、そうでない客も把握出来ているのだろう。

 ヨリが何気なく視線を返すと、茉莉が営業向けの笑顔を浮かべてきた。しかし、彼が軽く手を振って物静かに断りを示すと、どうしてか少しだけ目を見開いた。

「ありがとう、十分だ。あまり量は飲まない性質でね」