大学卒業後も、資格取得の勉強を続けながら、昼間はこのカフェ店で働いているらしい。実家から出てアパート暮らしをしており、彼女の母親は、夫が十年前から始めた本屋を受け継いで現在も経営を続けている。

 ヨリと茉莉は、実質、父親だけが同じだ。しかしこうして眺めている限りでは、彼は自分と同じルーツだという類似点を探し出す事は出来なかった。

 それが、どうしてか、少しばかりショックだった。理由は分からない。教えるつもりもなければ、今後も接点を持つつもりなどないにもかかわらず、彼は珈琲に手をつける事も忘れて、半分だけ血の繋がった女をただただ見つめていた。

 その間にも、彼女はカウンターを軽く清掃し、二、三人の来店した客の対応を行った。笑顔がよく似合う女性だった。困ったように笑う顔も柔らかく、珈琲メーカーを触る際の真面目な横顔からも他者に緊張を覚えさせない。

 同じ血が半分流れているはずだが、やはり彼女と自分は何もかもが全く違っているように思えた。

 ヨリ自身は覚えがないが、知人や友人から言わせると、彼の場合は黙っているだけで話しかけづらい緊張感を生む事があるらしい。おかげで後輩からは一線を引かれ、どこか怖がられているのも態度から見て取れた。

 ――あ。珈琲が冷める。

 ふと気付き、ヨリは彼女の姿から目をそらし、少し温くなった珈琲に口をつけた。

 こんな事をしてどうなる。自分はこれからどうするつもりなのかと、心の中でぼんやりと自身に問いかける。

 探偵会社に調査を依頼したのは自分だが、だからといってどうこうする予定は何一つなかった。とはいえ父親の死を知った後で、不意に、彼やその家族を知りたい衝動に駆られて休暇まで取ったのも確かだった。