「え、いきなり言われても、始めからとなると少し説明し辛いんだけど……」
「姉さんは女だから、きっと分からないって」
「下ネタなんて最低!」
「俺に下ネタとか言うなよ! 逃げ出したいぐらい苦手なのにッ」

 拓実が後部座席を振り返り、それから姉弟同士の言い合いが始まった。その光景を眺めていると、ああ姉弟なのだなと分かって、ヨリは少しだけ可笑しかった。

 隣の県へと向かうべく、そのまま車を高速道路へ向けて走らせ出した。大きな通りに出たところで、ようやく姉弟喧嘩がやんだ。

「あっ、そういえば拓実、ヨリさんそのままで大丈夫か考えてくれた? きちんとしている横顔とか、お父さんっぽいもの」
「お父さんぽいって……僕はまだ、二十代なんだけどな」

 後部座席から聞こえてきた、まるで緊張感もない茉莉の声に思わず呟いてしまう。しかし、そんなヨリの声は、元気な拓実の台詞におしやられた。

「姉ちゃんが心配するなら、帽子を被るとか」
「バカねぇ、室内で帽子をずっと被らせるつもり? 髪型を少し変えてみるとか」
「あ、それだと少しは雰囲気変わるかも。親父も癖毛じゃなかったし」

 なんか、緊張がなくなった、というレベルではない会話が聞こえてきた。