「推理小説って、やっぱりかっこいいですねッ」
「え?」
「あっ、いえ、なんでも……」

 途端に、彼が「しまった」という顔をして目をそらしていく。何か別の話題でも探そうとしたのか、落ち着かず視線を泳がせた後、無理やり話を戻した。

「えぇと、無理やりドラマチックに仕立てるとしたら、佐藤さんあたりが得意そうに思いました。もし頼んだとしたのなら、そのところどうなんですか?」
「もし脚本を頼んだとしたのなら、元の話が分からないくらいの、とんでもないものが仕上がると思うよ。多分、僕か君あたりがゲイに絡まれるか、ゲイになっているかの、どっちかだろうな」
「……確かに、やりかねませんね。嘘八百というか、むしろ全くのフィクションになりそうです」
「あの人は、それが女子受けすると思っているから」

 そこで、二人はハタと気付く。そもそも、そんな三流みたいな小説は出ないだろうと分かって、何を真面目に考えたんだろうと声を上げて笑った。

 それから間もなく、待ち合わせの建物の前に着いた。帰省用に、母への手土産を詰めた紙袋を抱えて待っていた茉莉が、車内を覗き込むなり驚いた顔をした。

「どうしたの、二人とも。泣けるくらい笑っちゃう事でもあったの?」

 彼女はそう言って、特に激しく肩を震わせる弟の後頭部に訝しげな目を向けた。ひとまずは「失礼しまーす」と告げて後部座席に乗り込む。

「姉さん、おはよう。ふッ、ふふふふ……傑作なんだ、これが」

 そう笑いながら説明する弟の横顔を、茉莉は仲間外れにされた子供のような目で見やった。頬を膨らませ、大層不機嫌な表情を作る。

「ちょっと拓実、私をのけ者にしないでよ。ヨリさんっ、私も混ぜてください!」