運転経験の少ない拓実を助手席に座らせ、ヨリがハンドルを握った。

 拓実の道案内で、茉莉と待ち合わせをしている彼女のアパートを目指した。土曜日は、日中と違った賑わいがあって、道路には車の列が出来ていた。

「本当に良かったのかな。君達の実家にある、墓前に手を合わせに行って」

 信号が青に変わるのを待ちながら、ヨリはまたしても訊いてしまった。提案をされた日から、何度も尋ねている事だった。

「いいんです。きっと父もそう望んでいると思いますし」
「でも、さすがに仏壇までは」
「何度も言いましたけど、母には、父と関わりのあった生徒だと紹介してありますから大丈夫だと思いますよ」

 拓実が、歩道を渡る通行人を目で追いつつ答える。

 血の繋がりの件に関しては、父の友人だった弁護士とヨリ達しか知らない。そう続けた彼が「それに」と、車窓へ目を向けたまま言った。

「俺が、あなたに父の事を知ってほしいと思ったんです」

 実家にある仏壇に、線香を上げませんかと誘ってきたのは拓実だった。家には父の写真などもたくさん残されており、アルバムもあるから見せたいのだと、姉と揃って提案内容は大きくなっていった。

 突然実家に上がり込んで大丈夫なのかとヨリは気にしたが、そうしたいと望んでいる自分もいた。亡き人のために、線香をあげて手を合わせたいと思った。

 信号が変わり、車が動き出した。

「仏壇に、親父の写真が飾ってあるんです。あと、書斎もそのまま残っていて」

 拓実は思い出すように語る。