佐藤と拓実と食事をした、同じ週の土曜日。

 午前十時前。ヨリは、最寄りのレンタカーショップへと急ぎ足で向かっていた。

 昨日まで続いていた雨は、夜中のうちにやんで、頭上には青空が広がっていた。鰯雲が東の空に群れをなし、少しばかり肌寒い秋先の風も、暖かい日差しと相まって久しぶりに心地良い気候となっていた。

 ヨリは速足で歩きながら時刻を確認し、「しまったなぁ」と思わず呟いた。既に待ち合わせの時刻から、十数分が過ぎてしまっている。

 昨日の金曜日、ヨリは「奢った恩を返すチャンスだぜ」と、またしても唐突に佐藤から一方的な呼び出しを受けた。それは会社の飲み会への誘いで、課長の第三男の誕生祝いも兼ねるというから仕方なく参加した。

 ――翌朝から予定が入っているので酒は飲めない、とはきちんと言った。

 だが佐藤は、顔を合わせた当初から気味の悪いほど上機嫌だった。ヨリの頭を撫で「なんか知らんけど、よかったなぁ」と勝手に満足げで、どんどん飲んだ。

 女でも出来たのかと疑って尋ねてみると「昨日も玉砕した」「イケメンが憎い」と面倒な展開になった。二次会のスポーツバーで上司や先輩達は「今度こそ勝つ!」とヨリを負かそうと躍起になり、そこでまた酒が大量に進んで、男一同、性質の悪い絡み酒と化した。

 そうして、テンションが最高潮に達した佐藤を筆頭に、三次会のゲイバーまで連れ回されたのだ。おかげで遅くまで付き合う事になってしまった。

「ったく、もう少し早めに佐藤さんを沈めておくべきだったな」

 ヨリは、ゲイバーで彼を放り投げて、ようやく解散になったのを思い返した。親切で優しいママ達を困らせるんじゃない、と、遠慮なく先輩に技を決めた一件だった。