このカフェ店は、探偵会社から得た情報の一つの場所だった。ヨリが勤めている会社から一駅分近くにあって、今日は昨日と違ってどこか閑散としていた。

 広い店内は、客の姿もまばらだった。全て単身の客のようで、大学生かフリーターらしき若い者達、もしくは定年後のような落ち着いた風貌の男性客しかいなかった。

 昨日の午後に来店した際には、広い店内には店員が五人ほどいたのだが、今は二人のみだ。一人は三十代女性で、白いシャツと黒いエプロンを身につけている。もう一人は四十代ぐらいの女性で、清楚な私服に質の良い茶色の前掛けをしており、指示しているところを見ると店長かオーナー辺りだろうと思われた。

 そうして、しばらく珈琲を口にしながら待っていると、カウンターの奥からもう一人の店員が出てくるのが見えた。

 それはセミロングの髪を一束ねにした、化粧気の薄い可愛らしい顔立ちをした若い女性だった。写真で見た通り、髪先に少し癖があるが予想していたよりも背丈はある。

「有澤さん、さっきはありがとね」
「いえいえ、お役に立てて何よりです」

 三十代の女性店員が親しげに呼ぶと、彼女は素直な性格が窺える雰囲気で答えた。互いに笑顔を浮かべて会話する様子を、ヨリは頬杖をつきながらぼんやりと眺める。

 マンションの一室に置いてきた、探偵会社からの報告書を思い返す。

 その報告書には、ヨリが知らなかった『父親』について書かれていた。たとえば大学の講師をやっていた事、本を書いていた事。母が関係を持った数年後に結婚し、娘と息子が一人ずついる事……。

 カウンターで話している「有澤さん」と呼ばれた若い女性は、その長女である有沢茉莉だった。探偵からもらった資料によると、今年で二十五歳になる。