お互い、近い距離でしばらく見つめ合っていた。窓を叩く雨の音が強くなって、私達を外の世界から切り離し、小さなこの室内に書隠してしまったかのようだった。

 互いの肌がしっとりと火照っている。彼女が、熱い吐息をもらした。

「バカみたいに真面目で、優しくて、やっぱり変な人ね」
「血の繋がりがなくとも、僕には大切に思える人が多くいる」
「――そう」
「君もそうだ。だから僕は、君にも優しくありたい」

 彼女の中で、世界がとても残酷な姿をしているというのなら、世界中が優しく見えるような奇跡が、幸福と共に彼女の身に降りますようにと祈りながら、私はその白い頬にキスを一つ落とした。

 彼女はキスの拍子に目を閉じたものの、それから私の手を握り返し、引き寄せてから頬をすり寄せた。

「こうしたいと思ったから、したけれど、やっぱりよく分からないわ。――でも、これだけは知っている。あなたは、きっと、世界中のどんな他人よりも、私に優しいでしょうね」

 私達は、それから何度も肌を合わせた。妊娠が発覚するまでの間、二人で子供の名前を考え続けながら、形のない何かを求めるように互いの熱を求め合った。

 ようやくお互いの名前を知ったのは、初めてベッドの中で朝を迎えた時だった。彼女は小難しい、けれど一度見たら忘れる事が出来そうにない珍しい名字をしていて、私は結局、彼女を下の名前で呼ぶ事にした。

 提案者は私であるのだからと、彼女は名前決めに関しては、私に大半を任せるという姿勢を見せた。

 そこで私は、自分の名前の一漢字である「ヨリ」を入れる事にした。そして、二人でいろいろと考えた結果、女性名、男性名の両方が決まった。

 ――そうして季節が冬へと移ろう前に、彼女が妊娠した。