交流するようになって気付いたのは、彼女は自分の家庭事情も平気な顔で辛辣に語る事だった。私が驚くと、彼女は実に不思議そうにこう言うのだ。

「辛い話だと思うの? おかしな人ねぇ。私達の家では、自分の身は、自分で守らないと生きていけないの。おかげで、私は外で苦労した事はないわ。とくに、私を殺そうと躍起になっていた二番目のお母さんには、感謝しなければね」

 彼女の味覚に障害がある事を知ったのは、そんな生活がしばらく続いてからだった。本当に美味いという料理以外、全く味がしなくなっているのだという。

 母の手料理や、兄弟に誘われて食べた低価格の食事に毒をもられた事が要因らしいが、はっきりとした病名は分かっていないらしい。彼女は「生活に不便はないから」と、病院の世話も受けていないと語って私を驚かせた。

 私達は、当たり障りなく言葉を交わし、そうして時折り、個人的な事をぽつりぽつりと語る毎日を過ごした。

 性行為の経験がない彼女には、私という男が、いつ「作業」に取り掛かれるようになるのかが予測出来ないようだった。「互いの事を知ってからじゃないと出来ないもの」と、当初私が適当に説明した事を信じたのか、自分から無理に迫ってくる事もなかった。

 実のところ、交流が始まってしばらくは、意思の強い彼女に押し倒される日が来るのではないか、と危惧していた。

 私も男であるから、綺麗な顔で迫られれば行為に及ぶのは簡単だろう。けれど、そうされたなら、初めての女性に対して、優しく愛情深く抱いてやれる自信はなかった。

 ――だが、それはただの杞憂に終わった。

 私達は清い関係のまま、結局何事にも発展せずに三ヶ月を過ごした。けれど大学で彼女の噂を聞くたび、耳を済ませるようになっている自分がいた。