それから、私と彼女の妙な交流が始まった。互いに自己紹介もしないまま、私が仕事を終えて帰宅すると彼女がやってきて、二人でベッドに座って話しをする。

 この話し合いの場所を決めたのは、彼女の方だ。私はベッドの上に座るのはちょっとなぁ……と思ったのだが、座布団の上での対話は断固拒否されてしまった。

 とはいえ、どうやら彼女は交際経験がないらしい。私の部屋に上がってベッドに座って会話し、腹が減れば、私か彼女で夕飯を用意す。そうして私は、いつも夜が遅くなる前に早々に彼女を帰したが、これといって疑問をぶつけられなかった事には安堵した。

 部屋は狭かったが、生徒に勉強用として提供したり泊まらせた事もあったから、私は彼女と二人きりになったとしても妙な気は起こさなかった。

 若い美女と二人きりの状況であるし、多分、私の方が男としておかしいのかもしれない。話すようになってからは、彼女が一生徒のように思えて欲情は覚えなかった。

 ――多分、情が湧いたのだろう。

 そんな日々に慣れた彼女が、部屋でリラックスする様子を受け入れている自分がいた。「こういうのも悪くないわね」と言い、少しずつ自分の事を話し聞かせてくれるようになった事に、私は小さな喜びも感じていた。

「そう。あなた、家族がいないのね。私の両親は生きているけれど、向こうがそうであるように、私も愛していないわ。親戚共々醜い争いが絶えないの。いっそ清々しく自滅してくれればいいのにね」