『何に対しても平常心のお前が、そんなに気になるってのは、多分良い事だよ。そういう時はさ、知らない振りを決め込まないで、調べてみたりしてちゃんと向き合ってみる事も大事なんだぜ』

 向き合ってみるといい。それが、どういう事を指すのかヨリには分からなかった。けれど、このもやもやとしたものがなくなってくれるのなら、アドバイスに従ってみようという気になった。

 まずは父親を知る事から始めた。彼なりに考えた結果、生まれて初めて探偵会社に連絡を取り、そうして入社してから初めての長期休暇まで取る事となった。

 探偵は、存命している父親の子について気になっているのだろうと思ったのか、そちらをメインに調査を行ったようだった。他界した父の写真はなかった。

 ――が、結果として、見知らぬ人間の写真と、調査書類を手に入れてしまった。

 思い返してみても、自分が何を考えて取った行動なのか不明だった。

 正直、どうかしていると思う。こんな事をして何になるのだと、ここ数日は、手に入れた「調査報告書」を前に、同じ疑問ばかりが脳裏を過ぎっていた。これまでの無関心だった自分を思うと、信じられない事だ。

 彼が調査の依頼を頼んだのは、借りているアパートからそんなに遠くない場所にあった、小さな探偵会社だった。そこには、落ち着いた風貌の初老の男がいた。

『それがいいでしょう。向き合ってみなさい』

 その探偵は、不思議なほど温かな笑みを浮かべて行動を後押しするように言った。子だけでなくたくさんの孫までいる者としての助言だったのか、一番安い料金では教えられない何かを知っての事だったのか……いまだ判断はつかないでいる。