どれくらいの空白があっただろうか。ふと、彼女が見動きした事で、私の中の幻想の妖精女王がそこから去っていった。

 彼女が、気高さをまとった強気な笑みをこちらへと向け、こう断言した。

「一番特別な人間は、親でも兄弟でもなく、腹を痛めて産んだ、自分の血が流れている子供なのよ」

 私には、生きる世界の違う女神の言葉を理解する事は出来なかった。多くの人間の意見や説を述べる事は容易いが、私は結局のところ反論も指摘もせずにいた。

 そう断言した直後、自分がどんなに自虐的な笑みを浮かべているのか、彼女自身が気付いていないのではないかと感じたからだ。

 彼女の強い瞳の奥に、助けを求めなかった一人の女の子がいる気がした。大人を信じられなくなり、他人を頼る事をやめたために、何もかも手に入れられる立場にありながら誰よりも孤独になったのでは――と、そんな気がした。

「君、友人はいるかい? 心の師は?」

 私が静かに尋ねると、彼女がおかしそうに唇の角を引き上げた。

「変な事を訊くのね。そんなもの、私にはないわ」

 どこかミステリアスな、大学のマドンナ。

 いつだったか、何度か耳にした噂の一句が脳裏を過ぎっていった。彼女が誰かを連れて歩いているといった話を、そういえば多くの噂の中で聞いた覚えはない。

 私は幼少時代に両親を失ったが、孤独ではなかった。両親と過ごした思い出は温かく、そして私はその後に出会った多くの人間に助けられ、希望を失った事はなかった。

 私は、自分と彼女が正反対の人間なのだと気付いた。

 それなのに、どうして彼女がここまで逞しくなったのか。どこから溢れ出てくるのかと思うほど、彼女が私に向かって自信に溢れた眩い笑顔を浮かべた。

「だから私は、自分のたった一人だけの特別な子供が欲しいの」