「……ホクロって……あのね。君は若いんだ。もっと広い世界を見て、多くの男を見るといい」
「謙虚なのね。あなたの目はとても綺麗よ」
やはり、どこか会話がかみ合っていない気がする。私は、とうとう全てを諦めた溜息をもらすと、精神的な疲労で痛む気がする頭を抱えた。
「どうして、僕なんだ」
「私がそう決めたから。一目見て、あなたがいいと思ったのよ」
はっきりとした根拠も理由も知らないけれど、でもそれでいいの。
独り言のようにそう続けた彼女は、日傘を差したまま湖を眺めて微笑む。
私は、その横顔を盗み見ていた。出会ってから初めて、年頃らしい柔和な微笑みを見たような気がした。彼女が今何を考え、どんな事に思いを巡らせて穏やかな笑みを浮かべているのか、少しだけ知りたくなった。
だから私は、もう少しだけ、彼女の隣に座っている事にした。
私が、足に腕を置いてその横顔を見つめていると、何か問いかけたいとする気配でも察したのか、ふっと彼女がこちらに視線を返してきた。
「あなた、この世で一番特別な人間を知っている?」
彼女は、唐突に話題を振る傾向があるらしい。とはいえ私も、この数時間で、一方的に寄越される会話もすっかり慣れてしまってもいた。
私は、凪いだ湖へと目を向けて少しだけ考えた。
「多分。両親とか、家族じゃないかな」
彼女の反応が気になってチラリと見てみれば、再び湖の方へ顔を戻してしまっていた。私は、その綺麗な横顔を眺めながら返答を待った。静かな表情は、理解も許さない絵画の中の妖精女王のように幻想的で、ずっと見つめていても飽きない。
「謙虚なのね。あなたの目はとても綺麗よ」
やはり、どこか会話がかみ合っていない気がする。私は、とうとう全てを諦めた溜息をもらすと、精神的な疲労で痛む気がする頭を抱えた。
「どうして、僕なんだ」
「私がそう決めたから。一目見て、あなたがいいと思ったのよ」
はっきりとした根拠も理由も知らないけれど、でもそれでいいの。
独り言のようにそう続けた彼女は、日傘を差したまま湖を眺めて微笑む。
私は、その横顔を盗み見ていた。出会ってから初めて、年頃らしい柔和な微笑みを見たような気がした。彼女が今何を考え、どんな事に思いを巡らせて穏やかな笑みを浮かべているのか、少しだけ知りたくなった。
だから私は、もう少しだけ、彼女の隣に座っている事にした。
私が、足に腕を置いてその横顔を見つめていると、何か問いかけたいとする気配でも察したのか、ふっと彼女がこちらに視線を返してきた。
「あなた、この世で一番特別な人間を知っている?」
彼女は、唐突に話題を振る傾向があるらしい。とはいえ私も、この数時間で、一方的に寄越される会話もすっかり慣れてしまってもいた。
私は、凪いだ湖へと目を向けて少しだけ考えた。
「多分。両親とか、家族じゃないかな」
彼女の反応が気になってチラリと見てみれば、再び湖の方へ顔を戻してしまっていた。私は、その綺麗な横顔を眺めながら返答を待った。静かな表情は、理解も許さない絵画の中の妖精女王のように幻想的で、ずっと見つめていても飽きない。