幼い頃に両親を失って、親戚の家をたらい回しにされた。その経験の中で、子を育てるという大変さを見てきたから、男であってもそれを知っているつもりだった。

 育児には時間も金も必要で、勿論そこには愛情も不可欠だ。二十歳そこそこの彼女に、その覚悟があるのかも怪しかった。そもそも、愛がない初対面の男の子供を産みたいなど、今の彼女はおかしな気の迷いでも起こしているのだろうか?

「悪いけど、僕には無理な相談だ。大学の教師として、学生である君にアドバイスしておくと、それは軽い気持ちで望むような事じゃない」
「あら。大学の先生だっのね」
「はぁ……そうだよ、僕は先生だ。世界には男と女がいて、出会いはそこら中に溢れているんだから、急ぐ必要はないんだ。君は若くて聡明で、この先の人生でおのずと縁のある相手だって見つかるだろう」

 私は、美しい彼女と自分を比べて思った。

「あなたじゃなければ駄目よ」

 彼女か、迷いなくそう言ってきた。
 私は、たった数分間のやりとりで疲れ切ってしまっていた。初対面の男に子を授けろと求めてきただけでなく、自分を指名してきた彼女には疑問しかない。

「よく分からないな……。なぜ僕であるのか、理由を聞いても?」
「あなたが気に入ったからよ」
「けれどそれは、一目惚れや恋愛感情ではないんだろう?」
「そうよ。欲しいのは、あなたの遺伝子だけ。そんなつまらない物、私には要らないもの」

 だから、それが根本的に間違っているんだよ。

 私は頭を抱えた。どうにか、彼女に理解してもらえるよう努力をして言い聞かせた。しかし、時間もたっぷり使って説得したのに、やはり彼女とは会話がかみ合わなくて――。