私がたまらず手を離すと、彼女は怪訝を隠しもしない表情で髪を後ろへ払った。

「何も知らない初心だとでも言いたいのかしら? もう何年も前に子供が作れる身体になって、今はもう成人している立派な女性だわ」

 だから間違っていないのだと、彼女は凛とした姿勢で言い放つ。

 私は眩暈に加えて、本格的に頭痛まで覚え始めた。この子を、いったいどうすれば説得できて、この状況をいかに平和的に回避する事が出来るのか分からない。

「……でも、君はやはり間違っているよ」

 私は深い溜息をもらして、顔に手をあてた。

「見知らぬ男に突然そんな事を言ったら、相手を勘違いさせるだけだと気付くべきだ。結果的に傷つくのは、君自身なんだよ。そもそも子供は玩具やペットとは違うんだ。愛する人と一緒になってから作るべきであって――」
「女は、自分の子だけは特別なの。それを知っていれば十分よ」

 彼女は、私の説得が不満だったのか遮ってきた。発言が気になって私が目を向ければ、彼女は通りの人々の視線から身を隠すように傘を抱え直す。

「男のあなたには、分からないでしょうね」

 彼女は、「きっと」とも「多分」とも使わずに、そう言い切った。人混みを見やる彼女の顔には、嘲笑するような笑みが浮かんでいた。

 まるで異なる存在と対話しているようだ。私は教師という立場からも、そして大人としての良心からも頭を悩ませた。彼女は完璧ではない。何か、大切な部分が欠けてしまっているような気がした。

「あなたが悩む事はないわ。私を妊娠させるまで、好きに抱いてくれればそれでいいの。結果的にあなたは楽しい思いが出来るし、私は子供を得られる。それでいいじゃない」
「……いや、良くはないよ」

 私は教師としても、一人の男としてもそれを勧められなかった。