彼女は、私の左目の下にある、小さな二連のホクロを指でなぞった。それから頬へと指を滑らせ、顎の輪郭を確認するように撫で上げ、最後に私の前髪を払いのけて顔を覗き込んできた。

 やや目元を隠す前髪を、こうやって異性にどかされたのは初めての経験だった。年頃らしい羞恥心も戸惑いもないその手付きに、かえって私の方が動揺させられた。

「な、何か……?」

 私が一方的に戸惑っていると、不意に彼女が妖艶に微笑んだ。

 それは背筋に悪寒が走るほど美しく、どこか大人びて官能的な笑みだった。しかし、それは私の男性的な本能を凍りつかせてしまうくらいの、不敵な笑みでもあった。

 この世で、自分の思い通りにならなかった事はない。そう確信し切った、独裁者のような強い意思と自信が窺えた。

「用件は一つよ。私に、子供を授けてちょうだい」

 私の思考は、とうとうそこで一旦停止してしまった。恥じらうべき乙女の口から飛び出た台詞が、あまりにも想定外ですぐには理解出来なかった。

 彼女は、いったい何と言った?

 子供を授けて、ということは、もちろんそこには男女の行為があるわけで――。

 遅れて、私は驚愕の表情を浮かべて言葉を詰まらせた。するとその様子を見つめていた彼女が、いかにも不思議がるように首を傾けてみせた。

「言葉の意味が分からない? 場所はどこでも構わないけれど、つまりあなたの精子を私に――」

 私は思わず、彼女の口を手で塞いでいた。彼女はその可愛らしい唇で、公衆には聞かせられないような、羞恥でハレンチな行為をつらつらと説明するつもりだったのだ!

「何て事を口にするんだっ、君は年頃の女の子じゃないか!」

 大人として正当な指摘をしたつもりだったが、どうやら、彼女の機嫌を損ねてしまっただけだったらしい。彼女が「ふうん」と言って、私の手の甲を躊躇なくつねった。