通り歩く人々が、立ち止まる私達を気にするような目を向けていた。私の事を知っている者が通る可能性を考え、早々に終わらせる決意を固めて口を開いた。

「悪いけど、僕には仕事があるんだ。だから、用があるのなら言ってくれないか。道案内なら地図を書く事も出来るし、この辺の地理なら詳しい」

 そう告げると、彼女は小首を傾げた。……馬鹿を見るような、蔑んだ眼差しでなければ完璧な愛嬌のある仕草だったに違いない。

 美人は、確かに目の保養にはなる。尚且つ、異性としては胸の高鳴りを感じない訳ではなかったが、私はやはり自身の価値を知っているだけに野心など抱けない。

 彼女は片方の手を腰にあて、少しだけ周囲に流し目を向けた。一見すると物憂げな眼差しだが、正面から観察していると、こちらを見ている男達の価値を量るよう冷やかさがあると私は気付けた。

 この子は、とても賢い娘なのだろう。自分の価値の高さを知っていて、うまく立ち振る舞う事に慣れ過ぎている印象を受けて少しだけ心配になった。

「私、あなたに決めたのよ」

 唐突に彼女が、通りゆく人々の間から覗く喫茶店の看板を眺めながら、なんでもないような口調でそう言った。

 私は、よく分からなくて、思わず「何だって?」と訊き返した。

「決めたって、何を」

 すると、彼女がこちらに目を戻してきた。彼女の白い手が流れるような美しい仕草で眼前に伸びてきて、私は咄嗟に息を呑んだ。