確かに、よくよく見てみれば、目元には二十歳そこそこの幼さが窺える気がした。端整な顔立ちにも、大学院まで出た我々大人とは違う初々しい若さがあった。
「あなたが察した通り、私は現役の女子大生よ。あなたは、私の事を知っているかしら? それなら話は早いのだけれど」
彼女は、淡々とした口調で、実につまらなそうに言ってきた。
まるで断崖絶壁に存在するような、氷の美しい花に触れているような気がした。彼女は確かに美しいが、花にたとえるならば、鋭利な棘だらけだと、私は決して口には出来ない印象を持った。
彼女は、私が知っている女子大生とは大きくかけ離れているようだった。あまりにも知的な目は、一人の大学教師である男の私が気圧されるほどだった。
何より、自分の美貌さえ、正確に把握して活用しているようにも窺えた。品のある服装は隅々まで計算され、差している日傘は美意識の高さを印象付けるように感じた。
彼女に対しての戸惑いが、苦手意識へと変わった。
私は、彼女に話しかけられるようなきっかけに覚えはなかった。だから、一人の通行人として、このまま彼女の前から去って大学に戻る事に決めた。
「……いや、君の事は知らないな」
しばらく逡巡した後、私は慎重に彼女の問いに答えた。実際、私はあまり噂については分からなかった。噂の発生源となっている大学名や、当女子大生の名前も知らない。
彼女は、秀麗な眉を僅かに寄せて「そう」と口をつぐんだ。しかし、どうしてか男性の中でも背丈のある私の顔を、探るようにじっくり見つめてくる。その間、差した傘をくるくると回す指先さえ、洗練された美しさを感じさせた。
とうとう、私は彼女の視線に耐え切れず一歩後退した。
「あなたが察した通り、私は現役の女子大生よ。あなたは、私の事を知っているかしら? それなら話は早いのだけれど」
彼女は、淡々とした口調で、実につまらなそうに言ってきた。
まるで断崖絶壁に存在するような、氷の美しい花に触れているような気がした。彼女は確かに美しいが、花にたとえるならば、鋭利な棘だらけだと、私は決して口には出来ない印象を持った。
彼女は、私が知っている女子大生とは大きくかけ離れているようだった。あまりにも知的な目は、一人の大学教師である男の私が気圧されるほどだった。
何より、自分の美貌さえ、正確に把握して活用しているようにも窺えた。品のある服装は隅々まで計算され、差している日傘は美意識の高さを印象付けるように感じた。
彼女に対しての戸惑いが、苦手意識へと変わった。
私は、彼女に話しかけられるようなきっかけに覚えはなかった。だから、一人の通行人として、このまま彼女の前から去って大学に戻る事に決めた。
「……いや、君の事は知らないな」
しばらく逡巡した後、私は慎重に彼女の問いに答えた。実際、私はあまり噂については分からなかった。噂の発生源となっている大学名や、当女子大生の名前も知らない。
彼女は、秀麗な眉を僅かに寄せて「そう」と口をつぐんだ。しかし、どうしてか男性の中でも背丈のある私の顔を、探るようにじっくり見つめてくる。その間、差した傘をくるくると回す指先さえ、洗練された美しさを感じさせた。
とうとう、私は彼女の視線に耐え切れず一歩後退した。