午後の十時を回った歩道には、まだ多くの人通りがあった。社交辞令を述べて、お互いが反対方向へと踏み出してすぐ、不意にヨリは、拓実に腕を掴まれて引き留められた。

「あのッ、これ、俺の連絡先です!」

 そう言って押し付けられたのは、一枚の名刺だった。ヨリが戸惑っている間にも、彼は焦ったように言葉を続けてくる。

「名刺は会社のやつなんですけど、その、一番下にあるのは俺の個人的なメールアドレスでして。あの、迷惑じゃなければ、その、何か疑問とかあればいつでも連絡してくれていいんで! じゃっ、ここで失礼します!」

 彼は羞恥心に顔を染め、慌てて告げた直後に脱兎の如く駆け出した。通行人がチラリとその姿を振り返る中、彼の後ろ姿は、あっという間に見えなくなっていってしまう。

 ヨリは、もらった名刺をしばらく困惑して眺めていた。家への道を引き返しながら、どうするべきかも浮かばないままズボンのポケットへとしまった。

 今はただ、父親からの手紙の内容が、気になって仕方がなかった。