ヨリは、予想外で内心動揺していた。母は妊娠してから、男とは連絡を取っていない。だから父親となった男は、自分の名を知っていないはずで。

「はじめ、弁護士の口から『別に子供がいる』と聞かされた時は、なんだそれ、って俺も思いました。……でも、全部、父の手紙に書いてあったんです」

 だから、怨みも何もないと言いたいのだろう。

 拓実の困ったような笑顔を見て、ヨリはますます困惑した。まるで『彼らを非難する事などできなくなったんだ』とでも言うかのようだった。

「そこには、一体何が書いてあったんだ……?」

 君らが赦せてしまうなにかが、そこにはあったのか?

 ヨリがそう思いながら尋ねると、拓実は鞄から一つの茶封筒を取り出した。

「俺達が、後日弁護士からこっそり手渡されたのは、コピーされた三部の手紙でした。原本は父の遺言もあって、姉が持っています。本当はポストにでも入れておこうかなとも思っていたんですが、佐藤さんから今回食事の件で話をもらった時に、念のため鞄に……」

 そう口にした彼が、おずおずと茶封筒をヨリへ差し出した。

「父からの『告白の手紙』です。これに、全てが書いてあります。――どうか、読んでください」

 一呼吸の間を置いて、ヨリは茶封筒を受け取った。開けていいか、と一旦確認してから、頷いた彼の前でその中身を取り出してみた。

 それは、コピー用紙に印刷された手紙のコピーだった。手書きの便箋が、そのまま印刷されてクリップでまとめられている。

 縦書きに綴られた文字は達筆で、冒頭には有澤兄弟の名前と、ヨリの名前が並んでいた。