「大丈夫です、あなたのせいじゃないんです……ごめんなさい」
そう言った彼は、涙が止まらない様子で嗚咽混じりの言葉をもらした。俺、実を言うと親父が好きだったんですよ、尊敬もしていたんです。反抗もいっぱいしたけど、いつも優しくて、もっとずっと長く生きてくれると信じていたんだ。
あなたのふとした表情や、仕草を目で追いかけて、面影を探している自分に気付いて、恥ずかしくて、恥ずかしくて……。親父が亡くなったのは少し前の話なのに、もう泣きたくなるくらい、たまらなく懐かしくて…………。
ヨリは、そんな彼の背を黙ってさすっていた。カウンターの奥から出てきたマスターが、暖かい濡れタオルを手渡してくれたので、それを拓実へ差し出した。
気付いた拓実が、か細い声で「すみません」と再度謝って受け取った。
ヨリは、拓実が落ち着くのを待ちながら彼側になって考えた。父親にいた別の子供。彼にとって自分は、唐突に表れたような存在だろう。
「君は、僕を恨めしく思うだろうか」
死んだ父親が、結婚する前に作っていた子供だ。
そう考えてぼんやり口にした途端、隣にいた拓実が、顔にタオルをあてたまま首をぶんぶんと左右に振った。
「そんな事はないです。あなたが俺達を、そんな風に見なかったのと同じです。だから、『恨めしい』だなんてやめてください。全くそんな事はないんです」
どうしてか、必死にそう言われてしまった。
「そうか」
ヨリは、ややあってそう答えた。
「うん、そうなんです」
ぐすっ、と拓実は押し付けたハンカチで鼻をすすって言った。ほどなくして落ち着き始めると、そのままの姿勢でぽつりぽつりと言葉を紡いだ。
そう言った彼は、涙が止まらない様子で嗚咽混じりの言葉をもらした。俺、実を言うと親父が好きだったんですよ、尊敬もしていたんです。反抗もいっぱいしたけど、いつも優しくて、もっとずっと長く生きてくれると信じていたんだ。
あなたのふとした表情や、仕草を目で追いかけて、面影を探している自分に気付いて、恥ずかしくて、恥ずかしくて……。親父が亡くなったのは少し前の話なのに、もう泣きたくなるくらい、たまらなく懐かしくて…………。
ヨリは、そんな彼の背を黙ってさすっていた。カウンターの奥から出てきたマスターが、暖かい濡れタオルを手渡してくれたので、それを拓実へ差し出した。
気付いた拓実が、か細い声で「すみません」と再度謝って受け取った。
ヨリは、拓実が落ち着くのを待ちながら彼側になって考えた。父親にいた別の子供。彼にとって自分は、唐突に表れたような存在だろう。
「君は、僕を恨めしく思うだろうか」
死んだ父親が、結婚する前に作っていた子供だ。
そう考えてぼんやり口にした途端、隣にいた拓実が、顔にタオルをあてたまま首をぶんぶんと左右に振った。
「そんな事はないです。あなたが俺達を、そんな風に見なかったのと同じです。だから、『恨めしい』だなんてやめてください。全くそんな事はないんです」
どうしてか、必死にそう言われてしまった。
「そうか」
ヨリは、ややあってそう答えた。
「うん、そうなんです」
ぐすっ、と拓実は押し付けたハンカチで鼻をすすって言った。ほどなくして落ち着き始めると、そのままの姿勢でぽつりぽつりと言葉を紡いだ。