「実は、姉から急に連絡があったんです。あなたの会社の近くだったので、もしかしたら行ったのではないか、とは思っていましたが……」

 姉は探偵の件を知らないでいるのに、彼に急ぎ連絡があった?

 ヨリは、話がよく分からなくなった。

「君に連絡があったというのは、どういう内容で?」
「父の、もう一人の子供かもしれないという内容ですよ。初日と、その次の日にも連絡がありました。だからもしかしたら、僕はあなた本人が訪れたんじゃないかと――」
「なぜ、僕本人が訪れたと? 初日とその翌日も、彼女の接客は受けていないのに」

 近くで顔を合わせて、言葉までかわしたのは、最後に行った日に珈琲のおかわりを案内された時だけだ。

 すると、拓実が妙なものを食ったような顔をした。

「なぜって…………」

 そのまま口をつぐんでしまった。次の言葉が探せないでいるようにも感じて、彼の正直さに嘘はつけないとも思っていたヨリは、先に自分の話を続ける事にした。

「父親の事を探偵に依頼したら、彼の子共がどちらも近くで働いていると知った。そうして僕は、彼女が働いているカフェに足を運んだ。こっそり調べて見に行くなんて、悪いとは思った。ただ、写真の人物を目にしてみたかったんだと――たぶん、そうなんだと思う」

 悪意はなかった。そうさせた感情の正体が、分からないだけなのである。だからヨリは、何か分かるかもしれないと何処かで期待して行動してみた。

 でも結局、それは何も解決に至らないままだった。

 ヨリが静かな口調で話を終えると、拓実が「ヨリさん」と控えめに名を呼んできた。