一瞬、拓実が分からないという顔をした。切り出したヨリ自身も、なぜこのタイミングでそう打ち明けたのか分からなくて、口を閉じてしまう。

 ややあって、拓実が緊張気味に唾を呑む音がした。

「知っていたって……何をですか?」
「――君達の、父親の名前。最近、彼が亡くなってしまった事を知った。それから、彼に二人の子共がいる事を、僕は知ったんだ」

 そう口にした途端、重かった口が軽くなって言葉を続けていた。

「先に言った通り、僕は母子家庭だった。母は、どうやら自分の子だけが欲しかったようで、相手の男にそれを頼んだとか――僕は、それまで父親については、ほとんど名前しか知らなかった」

 告白に、不思議と緊張は感じなかった。ヨリは、グラスについていた水滴を指で撫で、意味もなく拭いながら淡々と語る。

「新聞を見て、同性同名の男が亡くなった事に気付いた。たまたま母から電話があって尋ねたら、それが父親本人であると確認出来た。名前しか知らない人だったけど、なぜか気になって探偵を使って少しだけ調べてもらった」
「あの、もしかしてその経緯で、この前、姉が働いている『カフェねこや』に連日行きませんでしたか……?」

 拓実が、恐る恐るといった様子で尋ねてきた。

 ヨリは有給休暇が始まってから、数日通ったカフェを思い出して頷いてみせた。すると彼が「やっぱり、あなただったんですね」と目を見開いた。

 けれど思考が追い付かないでいるらしい。拓実はすぐに言葉が続けられない様子で、前髪をゆっくりとかき上げる間、しばらく言葉を詰まらせていた。