「俺みたいに、四十も近くなったおじさんになると、体力がもたなくて大変なんだよ。あとは若い者同士で楽しんでくれ。マスター、今の分までの料金は俺が払うから、こいつらにもう一杯ずつ出してやってくれないか?」
「かしこまりました」

 佐藤は一方的に告げたかと思うと、カウンターの奥にあるレジでさっさと支払を済ませ、そのまま帰るべく歩き出してしまう。

 ヨリは半ば呆気に取られていた。ハッと我に返って、慌てて佐藤の背に呼びかけた。

「佐藤さん、待ってください。本当に帰ってしまうんですか?」
「お前が休んでいる分、先輩として俺も頑張らなきゃならねぇからな。城嶋ちゃんも武藤君も、『ヨリさん早く戻ってきて』なんて泣きごと言うし、今の内に尻を叩いて伸ばしてやろうと思って」

 面倒見のいい佐藤らしい台詞だった。彼は、立ち上がりかけたヨリを「いいから、いいから」と席に戻すと、最後に手を振って「またな」と陽気に店を出ていった。

 残されたヨリと拓実は、締められたドアを唖然と見つめていた。

 好き勝手な自由人、佐藤がいなくなってしまうと、途端に場は落ち着きを取り戻したかのようだった。二人のグラスを、マスターが佐藤に言われた通り新しものに取り換える。

「……本当に帰っちゃいましたね、あの人」
「……佐藤さんは、昔からそういうところがあるからなぁ」