面倒な酔っ払い方である。そういう初々しい過剰反応が楽しいのだろう。ヨリは新入社員だった頃、クールな態度で技をかけて彼を抑え込んだのを思い出した。

 するとマスターが、鉄壁の無表情のままヨリにそっと提案した。
「佐藤様、随分酔い始めているようですが、私が沈めましょうか」

 ヨリは丁寧に断った。本心か冗談か測りかねたというのもあるが、ヨリが知っている佐藤という男は、相手が本気で嫌な事はしないと知っているせいだ。

 とはいえ、今日の佐藤の、まるで一升瓶を続けて何本も空けてしまったかのようなテンションの高さは気になった。

「マスター、彼に度の強いお酒をあげたんですか?」
「いいえ、いつも飲まれるものだけです」

 ヨリとマスターがそうやりとりするそばから、佐藤が突然「俺は酔ってません!」と言った。彼の腕に半ば首を締め上げられている拓実が、それに抵抗しつつ反論する。

「嘘だ! あんた絶対酔っぱらってるって! 素面でこんな非常識な大人、見た事ねぇよ!」
「男は何年経っても遊び心を忘れないもんなんだよ~。なっ、ヨリ?」
「遊び心が分からない僕に、話を振らないで欲しいですね」

 ヨリは、疑い深く佐藤の目を見た。そこにはちゃんと彼自身の意思が感じられて、記憶にある泥酔しきった様子にはあてはまらない気がした。

 不意に、拓実越しに目を合わせていた佐藤が、歯を見せて笑った。まるで可愛い弟の成長を喜ぶような顔にも感じて、ヨリはつい尋ねるべく開きかけた口を閉じた。

「十年は長生きしてる先輩の勘ってやつさ。何があるのかは知らねぇけど、ついつい世話を焼きたくなっちまうんだーーさて、と。中年は明日のためにも先に帰るかな」

 佐藤が前置きのようにそう言って、素直に拓実から手を離した。