それは、ヨリ自身すっかり慣れた反応だった。どうやら自分の名は、上下共に少しばかり読み方が独特であるらしい。口頭で言われても、漢字がまるで浮かばないというのが大勢の人間の意見だった。

 だから、ほとんどの人間は彼を「ヨリ」と呼んだ。ヨリとしても、周りから愛称で呼ばれる事に抵抗がなくなっていて、今では自分からそう名乗るようにしている。

「面倒だから、ヨリ、と呼んでくれていい。――プライベートですし、拓実さん、と呼んでも構いませんか」
「あ、ああ。ええと、それでお願いします」

 戸惑うように、拓実はそう答えた。そこで二人の会話は途切れた。

「なんだか初対面みたいな反応だなぁ」

 二人の自己紹介が済んだところで、眺めていた佐藤がグラスを片手に肘をついた。

「佐藤さん、僕らは、さっきの席が初対面ですよ」
「こうさ、ぱーっと打ち解けるとかさ」
「あんたの場合、初対面の時から距離感がおかしかったですよ」

 自分のグラスへ目を戻した拓実が、ぶすっとした顔で口を挟んだ。

 そんな事も関係ないし、佐藤が酒をやりながら世間話を始めた。主に会社内の人物や女性の件についてだ。話す彼は陽気で、それが成功した悪戯や思い出話へとに及ぶと、自然と酒の量も増えた。

 ヨリが諦めて見守っていると、佐藤はどんどん喋り続けてハイペースで飲んだ。その結果、一時間もせずに、ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべる絡み酒になった。

「おいおい拓実ちやんよぉ。お前、童貞じゃないんなら分かるだろうが、俺の悩みだって」
「あんた、飲むペースが増してからずっと、下ネタばっかりぶっこんでくるんじゃねぇよ!」
「なんだよ、男なら下ネタ大好きだろうがよ。なぁ、ヨリ?」