「その、大事な取り引き相手だって、うちの会社でも名前が上がってたんで、どんな人か気になっただけですよ。あなたからの連絡って、全部社長とか課長とか、システム課のリーダーが担当していますし」
「という事は、これまでヨリる事は知らなかったのか? 全然?」

 佐藤が、アルバイト店員が運んできたビールを受け取り、それぞれの前に置きながら口挟んだ。

「俺は、電話とかメールの対応業務には関わっていませんから。担当者がいない時、一度だけ受け取った電話の相手が彼で、先輩に教えてもらったというか……」
「え。お前、ヨリの声に聞き惚れてそっちの道に踏み外し――」
「違います! 何を考えているんですか!」

 拓実が、過剰反応して顔を真っ赤に抗議した。

 対する佐藤が、そんな怒鳴り声なんてかゆくもないと言わんばかりに、残念そうな溜息をもらしてビールジョッキを持った。

「なぁんだ。じゃあ、ちゃんと女が好きなのか」
「すッ、好きか嫌いかは別にしても、なんだって俺が男相手にそんな」
「おいおい、世間は広いんだぜ? 結構そういうのが好きな女だっているんだぞ。スーツの男と男が×××しているのだとか、×××で×××なのを想像して楽しんでいるんだよ」
「お、おおお俺にその気はありません! 男と男でなんて……」

 身体を震わせた拓実が、ふと、赤かった顔をみるみる青白くした。恐る恐るといった様子で、自分よりも座高がある佐藤を覗き込んで尋ねる。

「……まさか、実際にそんな人がいるんですか。男同士で……?」
「お前、真面目な奴だなぁ。まぁそうだな、いるんだろうな。もちろん俺は経験にないぜ、押し倒すのも倒されるのも女がいいもん。で、ヨリはどうよ?」