本当に、あの人は何をやっているんだ?

 ヨリは心底疑問になった。しかし佐藤が通話中を思い出したのか『じゃ、また後でな』と楽しそうに言って電話を切ったので、仕方なく外出の準備にとりかかった。

             ※※※

 ほどなくして外に出てみると、雨は日中より強くなっていた。

 ヨリは傘を差すと、ズボンの裾を濡らしながら歩いた。道路を走っている車の走行音が、道路の雨水をはねて多い通行人の雑踏をかき消している。

 しばらく歩くと、雨降りの中で明かりの灯った小さな看板が見えた。そこが例のいきつけの居酒屋の一つだった。昼間はランチメニューも出していて、初老の店主と中年の女性店員がメインで、若い数人のスタッフと共に切り盛りしている。

「佐藤で予約していると思うのですが」

 入店し、カウンターでそう告げると、見慣れた初老の店主が気付いて柔和な笑みを浮かべてきた。

「佐藤様でしたら、個室の三番のお席ですよ、どうぞ」

 そう口頭で案内され、ヨリは店内を進んだ。

 個室席は、全て和室の座席となっている。奥へと向かって三番の札がかかった戸を開けてみると、既に佐藤が、若い青年を隣に置いて入室していた。

 佐藤は、大盛りのカツ丼を食べているところだった。隣の青年は俯きがちに、黙々と唐揚げ定食をつついている。彼は露骨にブルー一色といった雰囲気が出ているのだが、今回の発案者である佐藤の表情は実に楽しげだ。

 彼はヨリに気付くなり、箸を持った方の手を上げて応えた。

「よぉ、ヨリ。先に食ってるぜ」
「はぁ、お疲れ様です」

 入室と同時に、若いアルバイト店員がやってきてお冷を渡され、ついでにヨリは海鮮丼を注文した。

 ――それにしても、まさか彼を連れてくるとは。

 ヨリは普段の表情の下で、少なからず驚いてもいた。水で喉を潤した後、改めて目を向けてみれば、佐藤の隣にいるのはやはり有澤拓実本人だった。