佐藤から連絡があったのは、調査報告書を処分した当日だった。

 着信があったのは午後六時前。定時が五時過ぎなので、少し残業があったようだ。かかってきた電話に出てみると、がやがやと賑わう社内の様子と、それを大急ぎで通過しているらしい佐藤のどこか楽しげな息使いが聞こえた。

『今日、飲みに行くぞ』

 ヨリが電話に出るなり、佐藤はそう切り出してきた。

『ようやく今日捕まえられそうなんだ』
「はぁ、『掴まえる』……いったい何をですか?」

 呆れつつ耳をすませていると、彼が社外へ出たのが分かった。佐藤は手を上げてタクシーを止めたようで、運転手に行き先を急ぎ告げるのが聞こえた。

「佐藤さん、急に言われても、僕はすぐに家を出られませんよ。洗濯物だってこれからたたむのに。準備する時間くらいは欲しいです」
『お前、女子みたいな事を言うなよ。まぁ集合は七時くらいに予定るからさ、問題ないだろ?いつもの店で、しっかり飯を食おうじゃないか』
「それじゃ僕が、まるで家では料理をしないみたいに聞こえるじゃないですか」
『イケメンで料理まで出来る男なんて、俺は認めんぞ。お前の手作り弁当を見た女子の評価の高さを、お前は知らないんだ』

 佐藤は、なんだか悔しそうに愚痴ってきた。運転手に『どう思います?』とわざわざ尋ね、タクシンーのおっちゃんが『分かりますわぁ』と調子よく相槌を打つのが聞こえた。

 相変わらず、よく分からない事を言う人だ。

 ヨリは、そのままタクシーの運転手と会話を始めた佐藤の声を聞きながら、ちらりと眉を寄せた。弁当に関しては、買うより持参した方が安いから作っているだけであって、それの何が悪いのか分からない。