『これは愛よ。私は、お前以外の人間なんて要らないもの』

 そんな母を見て、ヨリは彼女が、本当に自分の子だけが欲しかったのではないか、とも思ったりした。彼には理解出来ない信念で、確かにそれをやってのけたのだ、と。

 気に入ったのは、雰囲気と容貌。それから、顔にあったホクロ――だとか。

 母は、ヨリの「父」について多くを語らなかった。探偵に依頼した時は不安もあったものの、調べてみると、相手となったその男が、案外平凡だった事も彼を驚かせた。

 探偵会社が調べた父親の性格は、温厚な文学青年だった。結婚も、見合いから恋愛に発展してのものだったらしい。退職するまで大学教師卒を勤め、多くの生徒に慕われた。

 母と出会った当時の事は、若気の至りもあって出来た事だったりするのだろうか。愛や情もなく、そうして彼はなんでもなかったかのように結婚していった……?

「僕には、無理だなぁ……」

 想像してポツリと口にした。そもそもヨリは、女性にどれくらいの力で接すればいいのか、どうすれば怖がらせないで済むのか、いまだ考えているところだ。