妙な夢を見た翌日も、窓の外は変わらず雨景色が続いていた。激しさは少し和らいで、雨粒が一定の速度でもって窓を叩いて濡らしている。

 こうも雨が続くと、部屋干しにも限度を覚えた。ヨリは乾燥機を利用する事を決め、濡れた服の入った袋を持つと、一階に設置されているコインランドリーへと向かった。

 エレベーターで一階へと降りた時、二年前からよく見かけるようになった金髪の若い男とあった。金のチェーン・ネックレスが白い肌に映える美男子だ。

「おはようございます」

 その男は、いつも愛想良く挨拶する。いつも早朝一番に帰ってくる彼は、派手なスーツに女物の強い香水の匂いと、ウイスキーのような甘ったるい酒の香りをまとわせていた。

 ヨリも、条件反射のように「おはようございます」と言葉を返した。いつもならそこで終わるので通り過ぎようとしたら、そのまま男が足を止めてきた。

「洗濯物ですか? 雨が続くと、大変ですよね」

 持っている袋へと指を向けられ、そう言われた。

「そうですね。スーツはクリーニングに出せても、こればかりは」
「俺、大半はクリーニングに世話になるような服ばかりで、店の方で対応してくれるので有難いんですけど、少ない部屋着にしてもこう雨が続くと大変ですよ。部屋に干すと妙な匂いがするから」
「柔軟剤と消臭スプレーを使っても、あの匂いはなかなか取れませんからね」

 ヨリが同意してうんうんと頷くと、男が思い出したように小首を傾げた。

「そういえば、今日はスーツじゃないんですね。お休みですか?」
「有給休暇中なんです」

 いつも擦れ違い際は、お互いスーツのことが多かった。よく見ているんだなと、ヨリはそんな事を考えてしまう。