とはいえその半面、佐藤は同僚想いで世話焼きの一面もあった。長期休暇に入る前、少し気にした様子で「暇なら飲みに行こう」と軽く言葉を交わしていた事を思い出した。

 佐藤は気分が乗った際に、行く店を決める男だった。飲みに付き合わされると、時によっては何軒か連れ回される事もあるが、ヨリは長期休暇の真っただ中である。

「……まぁ、それくらいなら、いいか」

 彼は携帯電話をポケットにしまうと、傘を開き、やまない雨の中を歩き出した。

          ※※※

 カフェ店からアパートへと戻った。しばらく経った頃、ソファの上で雨の音を聞きながら、うたた寝したヨリは妙な夢を見た。

 それは、顔も知らない男の葬式の夢だった。

 葬式の主役である男が、細い体に白装束をまとって分厚い手紙を広げて立っている。その顔は見えなくて、彼は自分のために集まってくれた親族や友人達に、自ら別れの言葉を告げていた。

 葬式の参加者達は、細い嗚咽を上げていた。私語はせず、ただただ悲しみに泣きながら、広い畳み間で姿勢よく座って、その男が語る最期の言葉に耳を傾けていた。

 男はしわがれた、けれど愛情の深さを感じる穏やかな口調で、一人一人の名前を読み上げては丁寧に礼を述べていく。妻へ、二人の子共へ、それから親戚兄弟へ、友人達へ。世話になった恩師や先輩へ……。

 彼は思い出深いエピソードを交えながら、思い残す事などしないかのように一つずつ丁寧に話し、集まった者達へ温かい言葉を送っていった。

 夢の中で、ヨリは、参列者達の後ろに立ち尽くしていた。白と黒で統一された会場の中で、ただ一人普段着だった彼は、自分の居場所を見付けられないでいた。