『そうそう。これで相手が女だったら、「いい声をした男が、期待を裏切らないイケメンで恋に落ちる」とかいう展開なる可能性だってあるし、それはそれで実に俺好みだったのに。はぁ、残念でならねぇぜ』
「何を期待しているんですか。何度も言いますが、僕の顔は平均点ですよ。佐藤さんに恋人が出来ない事が不思議でなりません」
『お前の美意識の基準点がわからねぇよ。そんで、ついでに俺をグサッとさすのもやめよう、お前が隣にいると余計にモテいんだよ。』

 ま、そんな事はどうでもいいんだ、と佐藤は話を戻した。

『あいつ、なぁんか俺の好奇心をくすぐるんだよなぁ。うん、ヨリ、お前暇はあるだろ? いや、暇を持て余しているよな』
「佐藤さんの中では、僕が暇なのは決定事項なんですね」
『じゃ、また後で連絡するぜ』

 佐藤は何やら勝手に納得して、一方的に電話を切った。

 実に楽しそうな声だったので、嫌な予感を覚えた。通話が終わった携帯電話を見降ろし、ヨリはしばらく小難しい表情を浮かべていた。

「……まさか、また何かろくでもない事を悪巧んでいるんじゃないだろうな」

 三十代後半にして落ち着かない男。それが会社内で有名な、佐藤の一面だった。面白い事を求めるためならば、時間も苦労も惜しまないという姿勢である。

 最近だと、ツイッターで新妻との旅行の様子を中継していた、連続休暇中の南雲の出先に現れた、という事もしでかしていた。

 佐藤は午後に急きょ有給を取ると、わざわざ驚く南雲の写真を撮るためにスーツ姿のまま電車に乗り込んだ。彼の妻にはちゃっかり「サプライズです」と課長からの手土産を持たせて喜ばせ、南雲のびっくりした様子に腹を抱えて笑いまくった後、課長と他の社員にその時の写真を見せて回っていた。