「メールと電話の対応なら、『蒔田』と『新藤』と『沢田』という名前は結構聞きますね。僕が連絡すると、声を聞くなり田中さんに回してくれるのはこの三名くらいかと。他は、……たまに声を聞く社員の方はいますが、あっという間に引き継がれてよくは知りません」

 電話の向こうで、佐藤が『ふうん』と気のない返事をした。数十秒、思案するような間を置いたかと思うと、彼は悪巧むような楽しげな声を上げる。

『なるほどねぇ、なんだか面白くなってきたな。可能性の一つとしては、知らない間にお前が、向こうの会社で重要人物の一人に指定されているって線だな』
「一体何の話です?」
『実は少し前に、須藤さんが来社してきてな。初めて見る若い顔の付き添いがいたんだが、お前がいないのかと気にしていたんだよ』

 若い社員と聞いても、ピンとこない。もしや、きつい言い方をする取引先の怖い人間、と、臨時の電話対応の際に思わさせてしまったりしているのだろうか?

「僕は、何かまずい対応でもしているんでしょうか」
『ん? いやいやいや、お前の対応はうまいもんだよ。うちの課長だったら高圧的にいくし、俺だったら冷静じゃいられないのも、お前は落ち着いてテキパキ対応しちまうとな』

 ヨリは、佐藤の考えていることが分からなくなった。自分に問題がないとすると、彼は長期休暇を取った自分に対して、全くプライベートな連絡を取ってきただけなのか?

「佐藤さん、仕事中に遊ばないでくださいよ」
『ひでぇ言いようだなぁ。可愛い後輩に、ちょっと仕事の報告がてら電話入れてるだけだろ。あ~あ、しっかし相手が男ってのが残念だなぁ』
「須藤が連れていた若手の社員の事ですか?」