ここ数日、ずっと強い雨が降り続けている。

 それは、ほんの僅かな窪地や路肩にも水溜まりをつくるほどの大雨だった。大地を激しく叩く雨粒が、流れていく傘の上で弾けて、無数の雑音を作り上げている。

 彼はそれを耳にしながら、目的のカフェ店を目指した。

 先日と同じその店に行くと、自動ドアから中へと入った。予定がある訳でもなく、窓際の席に落ち着くと、珈琲を飲みながら退屈な長雨の光景を眺める。

 日差しの遮られた灰色の空の下、雨は多くの人々の悲しみを語るように降り続けている。通る人々は喪に服する参列者の如く、色彩を欠いた傘を広げて淡々と店の前を通り過ぎて行くかのようだった。ズボンの裾を濡らしながら歩く会社員達の傘の下の顔を想像しても、持て余した時間が早く過ぎてくれる事はない。

 平日のこの時間、いつもなら彼も、その多数の会社員の中の一人のはずだった。

 時刻は、既に午後の四時。取引先との慌ただしいやりとりや上司への報告書など、残業しないために頭をフル回転させて、苛々としながら時間と睨み合っている頃だ。

 ――だから、今の時間は彼にとって『非日常的』だった。