♢高校生時代 オカルト同好会
カルトと結が出会ったのは高校生の時だった。県内一の進学校に入学した岡野カルト、芳賀瀬志郎、真崎壮人は上級生が誰も所属しない存続の危機となっていた同好会に入会した。その名もオカルト研究会。元々カルトと芳賀瀬は中学生の時からの付き合いがあり、カルトと高校に入ってから知り合ったのが、真崎壮人だった。壮人はとても柔和な性格で厳格な芳賀瀬ともウマが合った。部活見学の時に、誰も部員がいないオカルト研究会に入ろうと言い出したのは芳賀瀬だったかもしれない。同時に皆が面白そうという反応をしたので、興味や趣味が合う友人となる第一歩だったように思う。
同好会として活動するためには4人の入部が必要だった。他の部活と兼部でもいいということで、とりあえず怖い話が大の苦手だとも知らず、カルトは隣の席の結に声をかけた。結は名前だけだでいいと知ると、快く了解してくれた。もちろん、知り合いの真崎壮人が入部するということも結の安心感につながっていたようだった。
隣の席になった結とカルトは親しくなった。結はかわいらしい顔立ちをしていて、いつも相手を思いながら一歩引いた行動をとる印象があった。どちらかというとおとなしいタイプで、そこまで親しい友達がいたようには見えなかった。
最初は実質3人で活動しようとしていた。
はじめはオカルト研究会こそただの口実で、カルトは仲良くなりたい一心で、結を積極的に誘うようになっていた。カルトの目的は結と付き合うことだったので、仲良くなるためには同好会の活動に誘うという行動は誰にでもわかりやすい単純な行動だった。
結は壮人と同じ幼稚園、小学校、中学校出身だ。そんな理由を取ってつけたように、結を交えて4人で行動することが増えた。結は怖がりだが、不思議な現象にとても興味を持っており、科学で解明できるような不思議な現象を調べるのが好きなようだった。例えば、なぜこの海は真っ赤に染まるのかとか、人は怖いと思うとありえないものが見えるという心理学的な側面から不思議な現象をとらえる少女だった。
最初こそオカルト研究会という名のもとに、みんなで花火を見るとか星を見るとか女子が好きなシチュエーションを作ったのは壮人だった。そのおかげで結も嫌がらずに活動に参加していた。同じ時間を重ねていく中で、いつのまにか岡野カルトは立花結の心をがっしりつかんでいた。カルトの大胆な告白もわかりやすい結に対する愛情表現も思春期の恋愛未体験女子が意識するには十分なアプローチだったように思う。
様々なイベントを一緒に過ごし、次第に距離が縮まり二人は恋人として交際を重ねていく。そして、大人になったカルトと結は結婚の約束をする仲にまで発展する。
立花結という女性。透明感、優しさ、笑顔――カルトにとっては初めて接する異性であり初めて意識した女性だった。カルトは一途で情熱的な性格だった。芳賀瀬は異性に興味がないし、壮人は恋愛が面倒だなと言って、モテるのに恋愛をしたがらない。唯一カルトは結に好きだとアピールする身近な男性となっていた。
結も恋愛経験がなく、カルトの真剣な想いをはぐらかしながら少しずつ意識していたように思える。
最初は、「好きとかそういうの苦手。岡野君のことは友達以上に思えない」と素直に断りを入れていた。しかし、どんな逆境でもカルトの結への想いは一途だった。
「俺、結が好きだ。付き合おう」
真面目な顔でまっすぐな気持ちを何回もぶつけて、告白したように思う。最初は冗談だという顔をしながらも、彼の本気度は確実に結に伝わっていただろう。重くない程度に時々、さりげなく告白をするカルト。でも、基本はいい友達でオカルト研究会の一員として日々、自分の好きなことに打ち込むカルト。だから、恋愛に置く比重は比較的軽く、恋愛をしたから今の生活が変わるようにも思えなかった。
カルトは努力家で勉強を怠らなかった。つまり成績を維持するために過度の遊びや脱線はしない主義だった。真面目な岡野カルトは次第に結の瞳に輝いて見える存在となっていた。何事にも一生懸命。それは、恋愛に対しても浮気など絶対にしないであろうまっすぐな人間だということは誰の目にも明らかだった。誠実さ、これは大切なことだ。
いつも、二人の傍らにいたのは真崎壮人だった。壮人と結は幼稚園時代からの友達だけあって、二人の間には阿吽の呼吸、無機質だけど、穏やかな空気が漂っていた。よく言えば、何も言わなくても通じ合える関係。悪く言えば、お互いにいてもいなくても変わらない空気のような存在のように映っていた。お互い嫌いあっているわけではないが、特別親しくもないのが長い付き合いなのにどこか不思議でもあった。
しかし、当時そんなことに疑問を抱く者などいなかった。何百人もいる生徒の関係なんて忙しい高校生活の中では考える意味もないし、そんなにたくさんの人間を観察する意味もない。
高校入学当時の真崎壮人は今のような派手で垢抜けた見た目ではなく、性格はおとなしく、顔立ちが整っているが目立たない少年だった。勉強は学年でも一番できる壮人だったが、意外にも運動は不得手らしく運動部に興味を示さなかった。お金持ちだという噂もあったが、本人はそのような自慢話をすることもなかったので、みんな気にせず不思議な現象についてとことん突き詰めた研究や推理をして過ごしていた。壮人は女子にモテていたのだが、誰とも付き合うことなく、ただ勉強と同好会活動を地味にこなしているという印象だった。
でも、大人になってからカルトは考えることがあった。なぜ、あの二人は長い付き合いなのにほとんど会話を交わすこともなく、ただほほ笑みあっていたのだろうと。オカルト研究会の一員としてただ一緒に行動するだけの関係は、二人に何も感情がなかったからなのだろうか。もしかして、二人とも奥手で何もできないまま時が過ぎただけなのではないだろうか――。
カルト自身が一生懸命アプローチしている様子を冷静に見ていた真崎壮人は、どんな想いだったのだろうかと思った。
カルトに対して、壮人は恋愛なんて時間の無駄遣いと思っていたのかもしれないし、恋愛なんて馬鹿らしいと思っていたのかもしれない。でも、壮人は勉強ができるけれど、感情表現が苦手な人間だということに気づいていた。もしかしたら、結を好きだと思っていたことはなかったのだろうか――? でも、そんな気持ちに気づけるほどカルトは器用ではなかったし、友達を応援できるほど自分の気持ちを抑えることができる人間ではなかった。
カルトと結が出会ったのは高校生の時だった。県内一の進学校に入学した岡野カルト、芳賀瀬志郎、真崎壮人は上級生が誰も所属しない存続の危機となっていた同好会に入会した。その名もオカルト研究会。元々カルトと芳賀瀬は中学生の時からの付き合いがあり、カルトと高校に入ってから知り合ったのが、真崎壮人だった。壮人はとても柔和な性格で厳格な芳賀瀬ともウマが合った。部活見学の時に、誰も部員がいないオカルト研究会に入ろうと言い出したのは芳賀瀬だったかもしれない。同時に皆が面白そうという反応をしたので、興味や趣味が合う友人となる第一歩だったように思う。
同好会として活動するためには4人の入部が必要だった。他の部活と兼部でもいいということで、とりあえず怖い話が大の苦手だとも知らず、カルトは隣の席の結に声をかけた。結は名前だけだでいいと知ると、快く了解してくれた。もちろん、知り合いの真崎壮人が入部するということも結の安心感につながっていたようだった。
隣の席になった結とカルトは親しくなった。結はかわいらしい顔立ちをしていて、いつも相手を思いながら一歩引いた行動をとる印象があった。どちらかというとおとなしいタイプで、そこまで親しい友達がいたようには見えなかった。
最初は実質3人で活動しようとしていた。
はじめはオカルト研究会こそただの口実で、カルトは仲良くなりたい一心で、結を積極的に誘うようになっていた。カルトの目的は結と付き合うことだったので、仲良くなるためには同好会の活動に誘うという行動は誰にでもわかりやすい単純な行動だった。
結は壮人と同じ幼稚園、小学校、中学校出身だ。そんな理由を取ってつけたように、結を交えて4人で行動することが増えた。結は怖がりだが、不思議な現象にとても興味を持っており、科学で解明できるような不思議な現象を調べるのが好きなようだった。例えば、なぜこの海は真っ赤に染まるのかとか、人は怖いと思うとありえないものが見えるという心理学的な側面から不思議な現象をとらえる少女だった。
最初こそオカルト研究会という名のもとに、みんなで花火を見るとか星を見るとか女子が好きなシチュエーションを作ったのは壮人だった。そのおかげで結も嫌がらずに活動に参加していた。同じ時間を重ねていく中で、いつのまにか岡野カルトは立花結の心をがっしりつかんでいた。カルトの大胆な告白もわかりやすい結に対する愛情表現も思春期の恋愛未体験女子が意識するには十分なアプローチだったように思う。
様々なイベントを一緒に過ごし、次第に距離が縮まり二人は恋人として交際を重ねていく。そして、大人になったカルトと結は結婚の約束をする仲にまで発展する。
立花結という女性。透明感、優しさ、笑顔――カルトにとっては初めて接する異性であり初めて意識した女性だった。カルトは一途で情熱的な性格だった。芳賀瀬は異性に興味がないし、壮人は恋愛が面倒だなと言って、モテるのに恋愛をしたがらない。唯一カルトは結に好きだとアピールする身近な男性となっていた。
結も恋愛経験がなく、カルトの真剣な想いをはぐらかしながら少しずつ意識していたように思える。
最初は、「好きとかそういうの苦手。岡野君のことは友達以上に思えない」と素直に断りを入れていた。しかし、どんな逆境でもカルトの結への想いは一途だった。
「俺、結が好きだ。付き合おう」
真面目な顔でまっすぐな気持ちを何回もぶつけて、告白したように思う。最初は冗談だという顔をしながらも、彼の本気度は確実に結に伝わっていただろう。重くない程度に時々、さりげなく告白をするカルト。でも、基本はいい友達でオカルト研究会の一員として日々、自分の好きなことに打ち込むカルト。だから、恋愛に置く比重は比較的軽く、恋愛をしたから今の生活が変わるようにも思えなかった。
カルトは努力家で勉強を怠らなかった。つまり成績を維持するために過度の遊びや脱線はしない主義だった。真面目な岡野カルトは次第に結の瞳に輝いて見える存在となっていた。何事にも一生懸命。それは、恋愛に対しても浮気など絶対にしないであろうまっすぐな人間だということは誰の目にも明らかだった。誠実さ、これは大切なことだ。
いつも、二人の傍らにいたのは真崎壮人だった。壮人と結は幼稚園時代からの友達だけあって、二人の間には阿吽の呼吸、無機質だけど、穏やかな空気が漂っていた。よく言えば、何も言わなくても通じ合える関係。悪く言えば、お互いにいてもいなくても変わらない空気のような存在のように映っていた。お互い嫌いあっているわけではないが、特別親しくもないのが長い付き合いなのにどこか不思議でもあった。
しかし、当時そんなことに疑問を抱く者などいなかった。何百人もいる生徒の関係なんて忙しい高校生活の中では考える意味もないし、そんなにたくさんの人間を観察する意味もない。
高校入学当時の真崎壮人は今のような派手で垢抜けた見た目ではなく、性格はおとなしく、顔立ちが整っているが目立たない少年だった。勉強は学年でも一番できる壮人だったが、意外にも運動は不得手らしく運動部に興味を示さなかった。お金持ちだという噂もあったが、本人はそのような自慢話をすることもなかったので、みんな気にせず不思議な現象についてとことん突き詰めた研究や推理をして過ごしていた。壮人は女子にモテていたのだが、誰とも付き合うことなく、ただ勉強と同好会活動を地味にこなしているという印象だった。
でも、大人になってからカルトは考えることがあった。なぜ、あの二人は長い付き合いなのにほとんど会話を交わすこともなく、ただほほ笑みあっていたのだろうと。オカルト研究会の一員としてただ一緒に行動するだけの関係は、二人に何も感情がなかったからなのだろうか。もしかして、二人とも奥手で何もできないまま時が過ぎただけなのではないだろうか――。
カルト自身が一生懸命アプローチしている様子を冷静に見ていた真崎壮人は、どんな想いだったのだろうかと思った。
カルトに対して、壮人は恋愛なんて時間の無駄遣いと思っていたのかもしれないし、恋愛なんて馬鹿らしいと思っていたのかもしれない。でも、壮人は勉強ができるけれど、感情表現が苦手な人間だということに気づいていた。もしかしたら、結を好きだと思っていたことはなかったのだろうか――? でも、そんな気持ちに気づけるほどカルトは器用ではなかったし、友達を応援できるほど自分の気持ちを抑えることができる人間ではなかった。