♢まりかとカルトの聞き込み捜査
夕方、高校から帰宅したまりかとダーツバーに聞き込みに行った。というのも、まりか自身が呪いのアプリを貸す代わりに捜査に協力したいと言い出し、同行したいと申し出たのだ。先程のヨージの忠告が心をざわつかせる。もしかして、まりかがアプリの創造主だったら。または何かしら裏で関係していたら――。自らの頬を叩き、そんな疑念を払拭する。
「危ない捜査に関わってしまう。できれば捜査から身を引いてほしい」
カルトは警告を放つ。しかし、まりかはそれを拒絶する。
「自分の命は自分で守りたいんです」
まりかは真剣だ。その気持ちはわからなくもない。そして、アプリの持ち主であるまりかは捜査には重要な役割を担っていた。こういう女性ははじめてだ。女性といってもまりかはまだ未成年の高校生だ。カルトは結以外の女性と話したことはほとんどない。知らない世界を初めて見たような気がした。
「この人、知ってる?」
まだ明るい時間は開店前だ。壮人が行きつけのバーのマスターに、金髪の壮人の写真を見せた。
「あぁ、常連のお客さんだよ。もう何年も通ってるかな。ふらっと来るから、いつ来るかはわからんけどね」
ひょろっとした細身のマスターはひげを伸ばしたダンディーなタイプだった。
「何年も前って?」
「最初に来たときは、黒い髪で地味な感じだったなぁ。ある時から、茶色い明るい髪色になって、今は金髪メッシュ。ずいぶん派手な感じになったのは覚えてるよ。彼、フリーターなんでしょ」
「え? そう言ってたんですか?」
少しばかり戸惑うカルト。
「なんでも、底辺高校卒業後に地方から来たとかそんな話をしていたな」
カルトは意外だった。あえて、高学歴であることを隠し、身分を偽っていたという事実。彼は、東王大の大学生という身分から離れたいと思っていたのだろうか。
「もしかして、指名手配とかやばい事件に関わってる人なの?」
小声で確認される。
「もしかして、何か事件に巻き込まれている可能性があったので。ちょっと調べているんです。彼は誰かここで親しい人がいるんですか?」
「うーん、まぁ、いろんな女性と親しげだし、誰とでも話している感じだけど。親密に話しているのは、ちょっと年下の男性だな。明るい茶髪で大きいユラユラしたシルバーリングのピアスをしたイケメン男性。なんでもフリーター仲間なんでしょ」
明るい茶髪、大きなシルバーリングのピアス。
もしかして――秋沢葉次がぱっと浮かんだ。二人は知り合いなのだろうか?
ヨージはフリーターではなく東王大学の首席入学の現役大学生。同じ大学に同じ高校出身。歳は違っても、接点があってもおかしくない。以前、ヨージと一緒に撮影した写真をスマホから検索する。
「もしかして、この人ですか?」
画面には茶髪の秋沢葉次が映る。
「あぁ、このお兄ちゃん、よく一緒にいるよ。二人ともイケメン美形。いい意味で目立つんだよね。まるで兄弟みたいだなぁって思ってたんだ」
マスターは開店準備をしながら快く答えてくれた。
また身分を偽っている奴がいる。なぜなんだろう。そんなに自分を知られたくないのだろうか? 世間からの評価――レッテルのようなものが邪魔なのだろうか。
二人は知り合いだったことをカルトは知らなかった。大学に入る前から知り合いなのか、その後から知り合いなのか――? 案外真崎壮人はあまり自分を語らない故、知らないことが多い。高校時代はあんなに接点があったのに、案外私生活を知らないということに気づかされる。
秋沢葉次も同様にあまり自分を語らない。だから、目の前にいる穏やかで優しいヨージしか知らなかった。
「面白そうな男を見つけましたね。秋沢は、これから警察で会う人物ですよね」
「その通りだ」
「何? この人たち警察にマークされている犯人だったりするの?」
マスターは慌てた様子だ。
「いえいえ、そんな危ないヤツではないですから。ちょっと用事があるだけです」
内心、危ないヤツではないことを願いながら否定する。
「ありがとうございました」
お礼を言い、二人の接点を確認したところで、警視庁に向かう。
「秋沢葉次、なんか癖がありそうなタイプですね。どんな人なんですか?」
まりかは神妙な顔をする。
「地元が一緒でさ、高校も大学も俺の後輩。秋沢葉次が中学の時から友達なんだ」
「なんで、歳が違うのに友達になったのですか?」
「まだ中学生だったヨージが偶然、俺の落とし物を拾ったんだ。高校経由で連絡があって、お礼をしたいということで一度会ったんだ。それ以来、連絡先を交換をして友達になったんだ」
「偶然……ですか。何を落としたんですか?」
まりかは食い入るように深く聞いてきた。見上げるまりかの表情は真剣そのものだ。
「実は財布を落としたんだ。そんな大金は入っていなかったけれど、当時の俺の全財産だったし、お礼をしたくてね」
「本当に偶然なのでしょうか?落とし物は、彼から近づく口実だったのかもしれませんね。スリは技術があればできる技ですから」
友情にぐきりとひびが入る音を感じる。まりかは容赦なくズバズバ言ってくる。やはり結とは全然タイプが違う。
「口実? 普通の男子高生に近づくメリットなんてある? 俺んち普通の家だし。だいたい、そんなはずはないよ。絶対に偶然だ。秋沢葉次との友情は絶対のはずだ。」
「絶対に偶然という根拠は? 彼は、もっと何か深い目的があるような気がします」
実に疑り深い。まりかの言うことが本当ならば、すごく考えて行動をしていたであろう。まだあの時のヨージは中学生だ。
「お前の推理は小説にしたほうがいいかもしれないな。考えすぎだろ。もう7年くらい前の話だぞ」
「年単位かけて近づいた何か目的がある可能性はあります。だいたい、そんな天才がなぜあなたに近づいたのかも疑問です」
推理小説の読みすぎではないだろうかと思う。
「おまえには、気が合うから友達になるとかそういった発想はないのか?」
「呪いのアプリが存在するとしたら。創造主は友達を作ろうなんて発想がない人物に決まっています。私と結さんのスマホに入っている謎の人物。威海操人っていうのも気になっていました。奇しくも真崎壮人さんと響きは同じですよね」
「まぁ、偶然だと思うけどな。ソウトという名前なんていくらでもいるし。だいたい、真崎壮人に恨みをもつような原因があるとも思えないし」
「もしも、真崎壮人に秋沢葉次が恨みを抱いていたら、この話は辻褄が合います。真崎壮人の大切なものを奪いたいなら、アプリが真崎の近辺にバラまかれた理由がわかります」
「まりか、おまえは真崎壮人と何にも関係ないだろ」
「真崎壮人は兄の芳賀瀬志郎と仲がいい。つまり、秋沢の周囲の人間の大切な物を奪って、それを楽しみたいのかもしれません。秋沢に会えるなんて面白いですね。ゾクゾクします」
まりかの目は好奇心に満ちていた。見かけによらず、まりかは強い。
夕方、高校から帰宅したまりかとダーツバーに聞き込みに行った。というのも、まりか自身が呪いのアプリを貸す代わりに捜査に協力したいと言い出し、同行したいと申し出たのだ。先程のヨージの忠告が心をざわつかせる。もしかして、まりかがアプリの創造主だったら。または何かしら裏で関係していたら――。自らの頬を叩き、そんな疑念を払拭する。
「危ない捜査に関わってしまう。できれば捜査から身を引いてほしい」
カルトは警告を放つ。しかし、まりかはそれを拒絶する。
「自分の命は自分で守りたいんです」
まりかは真剣だ。その気持ちはわからなくもない。そして、アプリの持ち主であるまりかは捜査には重要な役割を担っていた。こういう女性ははじめてだ。女性といってもまりかはまだ未成年の高校生だ。カルトは結以外の女性と話したことはほとんどない。知らない世界を初めて見たような気がした。
「この人、知ってる?」
まだ明るい時間は開店前だ。壮人が行きつけのバーのマスターに、金髪の壮人の写真を見せた。
「あぁ、常連のお客さんだよ。もう何年も通ってるかな。ふらっと来るから、いつ来るかはわからんけどね」
ひょろっとした細身のマスターはひげを伸ばしたダンディーなタイプだった。
「何年も前って?」
「最初に来たときは、黒い髪で地味な感じだったなぁ。ある時から、茶色い明るい髪色になって、今は金髪メッシュ。ずいぶん派手な感じになったのは覚えてるよ。彼、フリーターなんでしょ」
「え? そう言ってたんですか?」
少しばかり戸惑うカルト。
「なんでも、底辺高校卒業後に地方から来たとかそんな話をしていたな」
カルトは意外だった。あえて、高学歴であることを隠し、身分を偽っていたという事実。彼は、東王大の大学生という身分から離れたいと思っていたのだろうか。
「もしかして、指名手配とかやばい事件に関わってる人なの?」
小声で確認される。
「もしかして、何か事件に巻き込まれている可能性があったので。ちょっと調べているんです。彼は誰かここで親しい人がいるんですか?」
「うーん、まぁ、いろんな女性と親しげだし、誰とでも話している感じだけど。親密に話しているのは、ちょっと年下の男性だな。明るい茶髪で大きいユラユラしたシルバーリングのピアスをしたイケメン男性。なんでもフリーター仲間なんでしょ」
明るい茶髪、大きなシルバーリングのピアス。
もしかして――秋沢葉次がぱっと浮かんだ。二人は知り合いなのだろうか?
ヨージはフリーターではなく東王大学の首席入学の現役大学生。同じ大学に同じ高校出身。歳は違っても、接点があってもおかしくない。以前、ヨージと一緒に撮影した写真をスマホから検索する。
「もしかして、この人ですか?」
画面には茶髪の秋沢葉次が映る。
「あぁ、このお兄ちゃん、よく一緒にいるよ。二人ともイケメン美形。いい意味で目立つんだよね。まるで兄弟みたいだなぁって思ってたんだ」
マスターは開店準備をしながら快く答えてくれた。
また身分を偽っている奴がいる。なぜなんだろう。そんなに自分を知られたくないのだろうか? 世間からの評価――レッテルのようなものが邪魔なのだろうか。
二人は知り合いだったことをカルトは知らなかった。大学に入る前から知り合いなのか、その後から知り合いなのか――? 案外真崎壮人はあまり自分を語らない故、知らないことが多い。高校時代はあんなに接点があったのに、案外私生活を知らないということに気づかされる。
秋沢葉次も同様にあまり自分を語らない。だから、目の前にいる穏やかで優しいヨージしか知らなかった。
「面白そうな男を見つけましたね。秋沢は、これから警察で会う人物ですよね」
「その通りだ」
「何? この人たち警察にマークされている犯人だったりするの?」
マスターは慌てた様子だ。
「いえいえ、そんな危ないヤツではないですから。ちょっと用事があるだけです」
内心、危ないヤツではないことを願いながら否定する。
「ありがとうございました」
お礼を言い、二人の接点を確認したところで、警視庁に向かう。
「秋沢葉次、なんか癖がありそうなタイプですね。どんな人なんですか?」
まりかは神妙な顔をする。
「地元が一緒でさ、高校も大学も俺の後輩。秋沢葉次が中学の時から友達なんだ」
「なんで、歳が違うのに友達になったのですか?」
「まだ中学生だったヨージが偶然、俺の落とし物を拾ったんだ。高校経由で連絡があって、お礼をしたいということで一度会ったんだ。それ以来、連絡先を交換をして友達になったんだ」
「偶然……ですか。何を落としたんですか?」
まりかは食い入るように深く聞いてきた。見上げるまりかの表情は真剣そのものだ。
「実は財布を落としたんだ。そんな大金は入っていなかったけれど、当時の俺の全財産だったし、お礼をしたくてね」
「本当に偶然なのでしょうか?落とし物は、彼から近づく口実だったのかもしれませんね。スリは技術があればできる技ですから」
友情にぐきりとひびが入る音を感じる。まりかは容赦なくズバズバ言ってくる。やはり結とは全然タイプが違う。
「口実? 普通の男子高生に近づくメリットなんてある? 俺んち普通の家だし。だいたい、そんなはずはないよ。絶対に偶然だ。秋沢葉次との友情は絶対のはずだ。」
「絶対に偶然という根拠は? 彼は、もっと何か深い目的があるような気がします」
実に疑り深い。まりかの言うことが本当ならば、すごく考えて行動をしていたであろう。まだあの時のヨージは中学生だ。
「お前の推理は小説にしたほうがいいかもしれないな。考えすぎだろ。もう7年くらい前の話だぞ」
「年単位かけて近づいた何か目的がある可能性はあります。だいたい、そんな天才がなぜあなたに近づいたのかも疑問です」
推理小説の読みすぎではないだろうかと思う。
「おまえには、気が合うから友達になるとかそういった発想はないのか?」
「呪いのアプリが存在するとしたら。創造主は友達を作ろうなんて発想がない人物に決まっています。私と結さんのスマホに入っている謎の人物。威海操人っていうのも気になっていました。奇しくも真崎壮人さんと響きは同じですよね」
「まぁ、偶然だと思うけどな。ソウトという名前なんていくらでもいるし。だいたい、真崎壮人に恨みをもつような原因があるとも思えないし」
「もしも、真崎壮人に秋沢葉次が恨みを抱いていたら、この話は辻褄が合います。真崎壮人の大切なものを奪いたいなら、アプリが真崎の近辺にバラまかれた理由がわかります」
「まりか、おまえは真崎壮人と何にも関係ないだろ」
「真崎壮人は兄の芳賀瀬志郎と仲がいい。つまり、秋沢の周囲の人間の大切な物を奪って、それを楽しみたいのかもしれません。秋沢に会えるなんて面白いですね。ゾクゾクします」
まりかの目は好奇心に満ちていた。見かけによらず、まりかは強い。