♢ケース1 赤子にスマホを契約した母親

 以下は、幻人の小説サイトのひとつのエピソードだ。

 私が児童養護施設にお金を振り込むようになったきっかけであるエピソードを書こう。

 赤子が生まれてしまった未婚の母親がいた。まだ18歳くらいで、高校にも通っていなかった。その母親の親も中卒で、ひとり親家庭のようだった。実家は貧乏で収入は少なかった。貧困は連鎖する。つまり、逃れられない負の連鎖だった。どうすればいい収入の仕事に就けるのか誰も周囲で助言できるものはいなかった。

 貧しい状態で妊婦だったこともあり、働くことができなかった。彼女はお金に困窮していた。しかし、どうしても呪いのアプリを入れたいという相談があった、メールでのやりとりだったが、彼女は子どもを育てることが難しいと言っていた。

『いらない子どもなのに、生まれてしまった』と書いてあった。
『子どもの名義でスマホを購入した。子どものスマホに呪いのアプリを入れてほしい』というねがいだった。

 いらない子ども、という非人道的であり、身勝手な言い分だが、私はアプリを提供してやった。母親はとても喜んだ。でも、呪いのアプリは両方にインストールした。赤子にインストールされれば、言葉を発することができないし、呪いの子どもとのコミュニケーションは不可能だ。14日後に死ぬことは明白かつ確実だ。

 だから、フェイクアプリをインストールしておいたんだ。母親は子どもの死を14日間待ちわびていた。その間は、なんとか慣れない育児をして、今後の人生を殺人者というレッテルに縛られないように精一杯世話をしていたようだよ。フェイクな愛は私は割と好きなんだ。自分が犯罪者にならないように精一杯取り繕うなんて最高にかっこ悪くて人間らしいよね。

 私はいつでも偽善者でありたいと思っている。それは、アプリを創造した理由だ。

 呪いの子どもにはあえて、生まれたばかりの赤子に契約をするかのように仕込んでおいた。だから、本当は若い母親に呪いについて説明をしていたのだが、彼女は契約についての説明は赤子に言っているものだと思い、快諾していた。

「呪いの子、契約するよ。いらないから、呪い殺してね」
 聖母のような微笑みだった。アプリの開発者は呪いの契約時や重要な話は、基本幻人が直接行う。普段の話は既に入っているアプリの機能で行うことが多い。しかし、最初は肝心だから、創造主が呪いの子として直接話しているんだ。
 呪いの子どもは無表情で契約を交わす。
「契約成立」

 若い女は、新しい出会いを期待しているようで毎日が楽しそうだった。もうすぐ、赤子から解放される。母親を子どもを殺すことなく辞められるって。マッチングアプリでチャットを通して次なる男を探しているようだった。馬鹿な女だよ。

 その母親にお金を振り込むように指示をした。
 なけなしのお金、10万円を振り込ませたんだ。
 20万円も持っているようには思えなかったからね。

 指示したのはある地域にある大きな児童養護施設の口座番号にした。親がいない子どもを育てる施設だった。親に捨てられたり、親が死んだり、親が何らかの事情で育てられない子どもが集う場所。

 その施設にしたことには、理由があった。というのも、そこは特別な施設だと聞いていたからだ。国では表沙汰にしていないが、極秘に親のいない優秀な子どもを全国から集めているという話を聞いたからだ。

 実際にそこの施設で育った子どもは、日本一偏差値の高い東王大学に入学する生徒は8割らしい。あとは、国立の芸術系大学や留学して海外の大学に進学する者しかいないと聞く。施設育ちで高校を出て就職するとか中卒で就職する子どもが皆無なんて不思議だと思わないか。でも、国が100%負担して国の未来を創るであろう優秀な人材を育てる子ども予算が極秘予算としてあるらしい。まぁ、結構噂になっているから知っている者は多いとは思うけれどね。

 親がいない場合、大学に進学する子どもは全国的に見てとても低い。なぜならば、進学のためのお金を出す親がいないし、親がいなければ奨学金を得る必要がある。しかし、優秀でなければ奨学金は難しい。塾代や学費にお金を費やせない現実があるからだ。奨学金はのちに返還しなければいけないものが多い。返還義務が進学率を低めている背景にあるとも思える。

 つまり、親がいないだけで、子どもは経済的な困窮者が多く、将来の選択肢が非常に狭くなってしまうのが現実だ。だからこそ、国は親のいない優秀な子どもを集めて、将来の国を作る者を育てていると聞いた。非常に面白い試みだと思ったよ。わくわくするよね。

 もちろん、私はそこの施設に縁もゆかりもない。ただ、好奇心があった。親がいなくても子は育つというシステムを確立するために資金を提供できないかと思ったんだ。賢い人間を育てることは、この国の未来につながる。

 生まれたばかりの赤子を殺そうとした母親は14日後に死んだよ。施設には連絡しておいた。母親が死んでいたので、その子どもはどこかしらの施設に預けられた。でも、残念ながら、のちに知能指数が高い子どもたちの集まる噂の施設には入れなかったと聞いたよ。まぁ、馬鹿な親の子どもは馬鹿なのかもしれないね。それが現実だ。

 私は世の中が面白くなればいいと思い、このアプリを開発したんだ。このアプリを使いこなし、完全犯罪を遂げるものが現れたら色々な意味で面白いと思う。逆に、このアプリを使って人助けをすることだってできる。自分が幸せになることもできる。使い方次第で幸運のアプリになると思ったんだ。