♢壮人の恋の理解者
同級生のカルトが彼氏だとわかっているのに横取りすることもできない。穏便に過ごすために、壮人は二人が別れるタイミングを狙っていた。でも、二人は別れることなく、交際は続き、大学が結と壮人は別になる。つまり、人生初に結と物理的に距離ができてしまう。用事がないのに会う理由もない。だから、諦めるしかないと自暴自棄になってしまっていたと年下のヨージに正直に話していた。
まさかこんなに自分が正直に恋愛話を年下の後輩に話すなんて思ってもいなかった。でも、ヨージは聞き上手ですごくいいアドバイスをしてくれる。だからだろうか、気づいたら一番近い存在となっていた。
「カッコ悪いからさ、ずっと黙っていたんだ。執着しすぎだろ。キモイって思われるのがオチだ」
ため息をつきながら、空を見上げる。
「執着できるって、ある意味凄いことだと思うんだよね。人間は執着すると実力以上の能力を発揮するっていうデータもあるしね」
冷静な褒め方はヨージならではだ。
「ヨージは好きな女とかいないの?」
「いないよ」
即答したヨージは年頃であり、本当は恋愛ネタで照れるかと思ったが、その表情は冷めていた。モテるであろうイケメン秀才が好きな女もいない事実に壮人は少しばかり驚く。
「好きだった人は?」
「いないんだ。俺、人を愛するのが苦手なんだと思う」
せつない顔をして、見上げるヨージ。
「だから、ソート兄さんはかっこいいと思えるんだ。俺にはないものをたくさんもってるじゃん」
壮人が持っていないものを全部持っているようなヨージがかっこいいとか俺にないものをもっていると絶賛する。少しばかり照れる。でも、一度も好きになった人がいないのだろうか? いささか不思議だったが、天才であり、能力が高いヨージという人間は全てが簡単に手に入るから誰かを好きになる必要もないのかもしれないと思う。
「幼稚園から好きだった彼女に一度も好きだというアプローチはしなかったの? 俺がいい思い出作ってあげるよ」
ヨージは予想以上に壮人の恋愛話に大変興味を示した。
「基本は、何も言わなかったけど……高校に入ってから、こんな時間がずっとつづけばいい的なことを言ったかな……」
「その言葉に対して彼女は嫌がらなかったんだ? じゃあ、オカルト研究会で廃病院に行ってみなよ。そこで物理的にお互いの距離を近づける作戦立ててあげるからさ。廃墟でラブ作戦だよ」
ヨージは意外にも食いついてきた。
「高校時代の青春の一幕が廃病院なんて終わってるな」
そんな突っ込みを自分自身に入れる。
ヨージの助言通りに作戦を遂行する。全て彼の作戦通りに事は運んだ。今まで生きてきた期間で、一番好きな人と物理的にも心の距離も一番が近くなった時間を思い出す。廃病院という異質で不気味な空間だったが、その少しの時間だけは心が満たされたように思う。
世界で一番大好きな女性が暗闇の中で壮人だけを頼る。その感覚が今でも忘れられない。あの時握った手のぬくもりもぶつかる華奢な体も今でも体に感覚がある。あの人生唯一無二の幸せな時間を思い出す。彼女が縋るような目で頼ってきたあの時間は間違いなくカルトのものではなかったと思えた。あの時間は永遠の中の一瞬かもしれない。しかしながら、その時間、立花結は真崎壮人のものだったと自負していた。
その後、成功話をヨージに報告した。
「ありがとう。ヨージのおかげでひと夏の甘い思い出ができたよ」
「彼女、ソート兄さんのこと好きになったと思うよ。反応はどうだった?」
照れる壮人を見上げるヨージはとても楽しそうな顔をする。
「嫌がってはいなかったと思う。結は怖がりで、チョキグーで二人ペアになってさ。俺しか隣にいなかったし、自然と手をつないでいた。4人でオカルト研究会をやっていた時に廃病院で一度二人きりでたたずんでいてさ。しばらく、古びた長椅子に座って体を支え合いながらただ無になっていたんだ」
「へぇー、その心理作戦は使えるね。この世界で心理的に彼女が一人ぼっちになれば、きっとソート兄さんのことを頼ってくれるよ。今、考えているアプリがあるんだ。きっと両思いにしてあげるよ、兄さん」
何かを思って、にやっと笑ったカルトはアプリの話を持ちだす。
「呪いの手紙っていうのが出回っているの知っている?」
「噂程度には聞いたことはあるよ。そういえば、ヨージも霊感持ってるんだっけ?」
「俺は霊感と呪術の力を生まれつきもっている。今、人々に必要なのは呪術の力で人を幸せにすることだと思うんだ」
何かを見据えた様子のヨージは力強く言葉を述べる。霊感がある人はたまにいるが呪術の力はごく稀だ。基本的に遺伝だと聞いていたので、そういった家系が他にも存在しているということが非常に珍しいと壮人は感じていた。
ヨージに親近感を更に抱く壮人は語り掛ける。
「呪術師ってのは、遺伝と才能だってきいたことがあるよ。今まで会ったことがなかったから、すごく嬉しいよ。呪術師っていうのは呪われた人を救うか呪う手伝いをすることだろ。まぁ、大昔の先祖がそんな仕事をして今の親父の会社の基盤を作ったっていうのは聞いたことがあるけど。呪術師っていうのは結構なお金にはなるらしいね。でも、呪術で人を幸せにできるなんていう発想はなかったな」
新たな発想と斬新な視点を持つヨージはやはり面白いと壮人は思っていた。固定概念とか既存の事例を一蹴してくれる存在は貴重だった。
壮人の周囲は固定概念にとらわれていて、マニュアル通りの人間が多かった。実際進学校では将来を約束される道を選ぶものの比率は圧倒的に多い。周囲の親も生徒も既存の概念にとらわれていて、ここの高校からこの大学に入るのが普通だとかいい将来ばかりを押し付けている印象が強かった。だから、正直嫌いだった。そんな学校も、そんな人間も。
「マイナスなイメージがある呪いだけどさ、呪うことで幸せになる手伝いが呪術師にこそできるだろうと思うんだ」
「呪うことで幸せ?」
正反対の言葉に戸惑う壮人。
「そうさ、呪うことでいらない人を消す。一番シンプルでしょ。それで幸せになる人って多いんだよ」
にこにこしながらヨージは提案してくる。とても、消す、つまり殺すということを暗に発している人間とは思えない笑顔だった。語り掛けるヨージの瞳は輝きが増す。
「たとえば、いじめられている人って自殺することが多いでしょ? その相手を殺せばその人は幸せになると思わない? または、自殺志願者の場合だけど、ネット検索結果によるとまずは楽に死ねる方法を探すことが多いんだよね。つまり楽に死ねたり殺せるアプリがあったら喜ぶ人がいるでしょ」
「以前から危ないヤツだとは思っていたけど、発想がいかにもおまえらしいな」
同意する壮人。たしかに、ヨージの言うことは正論だ。でも、そんな間違えたことを提案することは普通ならば、この世の中で叩かれる。
でも、呪術師家系だということや規定概念に囚われたくないと感じていた壮人にとっては妙案だと感じる案件だった。
「呪いのアプリを作ってソート兄さんの恋を成就させてあげるよ。だから一緒に作ろう。その代わり秘密だよ。ソート兄さんが結さんと結婚するために必要だと思うんだ」
「でも、それと彼女との両思いは別物だろ」
片思いの恋愛の話と呪いのアプリは違うと思う壮人。
「そうでもないよ。例えば、廃病院で二人きりだったら彼女は兄さんにしかすがれない。だから、いい感じの時間を過ごせたんでしょ。現実世界全体を廃病院のような精神的な密室状態にすれば、彼女はソート兄さんのことを選ぶってことだよ」
時々鋭い眼光を向けるヨージは普通の高校生とは思えない大人びた瞳だった。そして、その先に見ているものは何かは見当もつかないような気がしていた。飽きさせない本物に出会えたような気がして面白い話だと壮人は話に乗ることにした。
ヨージは少しばかりの霊感と言っていたが、常人とは違う強い能力と頭脳があることに壮人は気づいていた。とても珍しい能力だ。あまりそういう家系が存在していることを壮人は聞いたことがなかった。突然変異で能力者が生まれることがあるのだろうか。でも、同じ能力を持つ知的好奇心を揺さぶってくれる同志を得た壮人は今まで生きてきた中で一番幸せだと思えた。そして、かけがえのない大事な友達であり仲間だと思えた。
日々の積み重ねと信頼関係で、二人の絆は深まっていた。
そして、時は来た。何年もかけて天才と秀才が一緒に創造し完成したアプリを使う日が――。
何年もかけて完璧になった呪いのアプリをあえて結にインストールする方法を取った。実際は呪い主は幻人による遠隔インストールだったが、結は疑うことなくただ恐怖におびえ、入籍と引き換えに譲渡に走る。でも、たしかにそこに愛は存在していた。ずっとずっと秘めた気持ちが、確かに存在していた――。
同級生のカルトが彼氏だとわかっているのに横取りすることもできない。穏便に過ごすために、壮人は二人が別れるタイミングを狙っていた。でも、二人は別れることなく、交際は続き、大学が結と壮人は別になる。つまり、人生初に結と物理的に距離ができてしまう。用事がないのに会う理由もない。だから、諦めるしかないと自暴自棄になってしまっていたと年下のヨージに正直に話していた。
まさかこんなに自分が正直に恋愛話を年下の後輩に話すなんて思ってもいなかった。でも、ヨージは聞き上手ですごくいいアドバイスをしてくれる。だからだろうか、気づいたら一番近い存在となっていた。
「カッコ悪いからさ、ずっと黙っていたんだ。執着しすぎだろ。キモイって思われるのがオチだ」
ため息をつきながら、空を見上げる。
「執着できるって、ある意味凄いことだと思うんだよね。人間は執着すると実力以上の能力を発揮するっていうデータもあるしね」
冷静な褒め方はヨージならではだ。
「ヨージは好きな女とかいないの?」
「いないよ」
即答したヨージは年頃であり、本当は恋愛ネタで照れるかと思ったが、その表情は冷めていた。モテるであろうイケメン秀才が好きな女もいない事実に壮人は少しばかり驚く。
「好きだった人は?」
「いないんだ。俺、人を愛するのが苦手なんだと思う」
せつない顔をして、見上げるヨージ。
「だから、ソート兄さんはかっこいいと思えるんだ。俺にはないものをたくさんもってるじゃん」
壮人が持っていないものを全部持っているようなヨージがかっこいいとか俺にないものをもっていると絶賛する。少しばかり照れる。でも、一度も好きになった人がいないのだろうか? いささか不思議だったが、天才であり、能力が高いヨージという人間は全てが簡単に手に入るから誰かを好きになる必要もないのかもしれないと思う。
「幼稚園から好きだった彼女に一度も好きだというアプローチはしなかったの? 俺がいい思い出作ってあげるよ」
ヨージは予想以上に壮人の恋愛話に大変興味を示した。
「基本は、何も言わなかったけど……高校に入ってから、こんな時間がずっとつづけばいい的なことを言ったかな……」
「その言葉に対して彼女は嫌がらなかったんだ? じゃあ、オカルト研究会で廃病院に行ってみなよ。そこで物理的にお互いの距離を近づける作戦立ててあげるからさ。廃墟でラブ作戦だよ」
ヨージは意外にも食いついてきた。
「高校時代の青春の一幕が廃病院なんて終わってるな」
そんな突っ込みを自分自身に入れる。
ヨージの助言通りに作戦を遂行する。全て彼の作戦通りに事は運んだ。今まで生きてきた期間で、一番好きな人と物理的にも心の距離も一番が近くなった時間を思い出す。廃病院という異質で不気味な空間だったが、その少しの時間だけは心が満たされたように思う。
世界で一番大好きな女性が暗闇の中で壮人だけを頼る。その感覚が今でも忘れられない。あの時握った手のぬくもりもぶつかる華奢な体も今でも体に感覚がある。あの人生唯一無二の幸せな時間を思い出す。彼女が縋るような目で頼ってきたあの時間は間違いなくカルトのものではなかったと思えた。あの時間は永遠の中の一瞬かもしれない。しかしながら、その時間、立花結は真崎壮人のものだったと自負していた。
その後、成功話をヨージに報告した。
「ありがとう。ヨージのおかげでひと夏の甘い思い出ができたよ」
「彼女、ソート兄さんのこと好きになったと思うよ。反応はどうだった?」
照れる壮人を見上げるヨージはとても楽しそうな顔をする。
「嫌がってはいなかったと思う。結は怖がりで、チョキグーで二人ペアになってさ。俺しか隣にいなかったし、自然と手をつないでいた。4人でオカルト研究会をやっていた時に廃病院で一度二人きりでたたずんでいてさ。しばらく、古びた長椅子に座って体を支え合いながらただ無になっていたんだ」
「へぇー、その心理作戦は使えるね。この世界で心理的に彼女が一人ぼっちになれば、きっとソート兄さんのことを頼ってくれるよ。今、考えているアプリがあるんだ。きっと両思いにしてあげるよ、兄さん」
何かを思って、にやっと笑ったカルトはアプリの話を持ちだす。
「呪いの手紙っていうのが出回っているの知っている?」
「噂程度には聞いたことはあるよ。そういえば、ヨージも霊感持ってるんだっけ?」
「俺は霊感と呪術の力を生まれつきもっている。今、人々に必要なのは呪術の力で人を幸せにすることだと思うんだ」
何かを見据えた様子のヨージは力強く言葉を述べる。霊感がある人はたまにいるが呪術の力はごく稀だ。基本的に遺伝だと聞いていたので、そういった家系が他にも存在しているということが非常に珍しいと壮人は感じていた。
ヨージに親近感を更に抱く壮人は語り掛ける。
「呪術師ってのは、遺伝と才能だってきいたことがあるよ。今まで会ったことがなかったから、すごく嬉しいよ。呪術師っていうのは呪われた人を救うか呪う手伝いをすることだろ。まぁ、大昔の先祖がそんな仕事をして今の親父の会社の基盤を作ったっていうのは聞いたことがあるけど。呪術師っていうのは結構なお金にはなるらしいね。でも、呪術で人を幸せにできるなんていう発想はなかったな」
新たな発想と斬新な視点を持つヨージはやはり面白いと壮人は思っていた。固定概念とか既存の事例を一蹴してくれる存在は貴重だった。
壮人の周囲は固定概念にとらわれていて、マニュアル通りの人間が多かった。実際進学校では将来を約束される道を選ぶものの比率は圧倒的に多い。周囲の親も生徒も既存の概念にとらわれていて、ここの高校からこの大学に入るのが普通だとかいい将来ばかりを押し付けている印象が強かった。だから、正直嫌いだった。そんな学校も、そんな人間も。
「マイナスなイメージがある呪いだけどさ、呪うことで幸せになる手伝いが呪術師にこそできるだろうと思うんだ」
「呪うことで幸せ?」
正反対の言葉に戸惑う壮人。
「そうさ、呪うことでいらない人を消す。一番シンプルでしょ。それで幸せになる人って多いんだよ」
にこにこしながらヨージは提案してくる。とても、消す、つまり殺すということを暗に発している人間とは思えない笑顔だった。語り掛けるヨージの瞳は輝きが増す。
「たとえば、いじめられている人って自殺することが多いでしょ? その相手を殺せばその人は幸せになると思わない? または、自殺志願者の場合だけど、ネット検索結果によるとまずは楽に死ねる方法を探すことが多いんだよね。つまり楽に死ねたり殺せるアプリがあったら喜ぶ人がいるでしょ」
「以前から危ないヤツだとは思っていたけど、発想がいかにもおまえらしいな」
同意する壮人。たしかに、ヨージの言うことは正論だ。でも、そんな間違えたことを提案することは普通ならば、この世の中で叩かれる。
でも、呪術師家系だということや規定概念に囚われたくないと感じていた壮人にとっては妙案だと感じる案件だった。
「呪いのアプリを作ってソート兄さんの恋を成就させてあげるよ。だから一緒に作ろう。その代わり秘密だよ。ソート兄さんが結さんと結婚するために必要だと思うんだ」
「でも、それと彼女との両思いは別物だろ」
片思いの恋愛の話と呪いのアプリは違うと思う壮人。
「そうでもないよ。例えば、廃病院で二人きりだったら彼女は兄さんにしかすがれない。だから、いい感じの時間を過ごせたんでしょ。現実世界全体を廃病院のような精神的な密室状態にすれば、彼女はソート兄さんのことを選ぶってことだよ」
時々鋭い眼光を向けるヨージは普通の高校生とは思えない大人びた瞳だった。そして、その先に見ているものは何かは見当もつかないような気がしていた。飽きさせない本物に出会えたような気がして面白い話だと壮人は話に乗ることにした。
ヨージは少しばかりの霊感と言っていたが、常人とは違う強い能力と頭脳があることに壮人は気づいていた。とても珍しい能力だ。あまりそういう家系が存在していることを壮人は聞いたことがなかった。突然変異で能力者が生まれることがあるのだろうか。でも、同じ能力を持つ知的好奇心を揺さぶってくれる同志を得た壮人は今まで生きてきた中で一番幸せだと思えた。そして、かけがえのない大事な友達であり仲間だと思えた。
日々の積み重ねと信頼関係で、二人の絆は深まっていた。
そして、時は来た。何年もかけて天才と秀才が一緒に創造し完成したアプリを使う日が――。
何年もかけて完璧になった呪いのアプリをあえて結にインストールする方法を取った。実際は呪い主は幻人による遠隔インストールだったが、結は疑うことなくただ恐怖におびえ、入籍と引き換えに譲渡に走る。でも、たしかにそこに愛は存在していた。ずっとずっと秘めた気持ちが、確かに存在していた――。